閑話:羽月②

 3年生に進級した私は、何の因果か今まで一度も同じクラスになれなかった優李と一緒になってしまった。しかも奏まで一緒なんて。

 私が教室に入ると、もう2人は優李の席で一緒に会話をしていた。周りにいるのは、確か優李と奏のお友達だったわね。


 あの4人を見ていると、以前までの私たちを見ているようで心が苦しくなってしまう。優李と一緒に笑い合うことなんて当たり前のことだったのに、もう私はその当たり前を手にすることは二度とないのだ。



(私が裏切ったのに未練たらしいわね)



 私が見る限り優李はもう私のことを吹っ切っているように見える。17年くらいずっと一緒にいた幼馴染みを、そんな簡単に忘れられてしまったと言う事実にとても悲しい気持ちになってしまった。もちろん身勝手なのは理解している。それでもそう感じてしまうのだ。




 -




 お昼の休憩時間になった。

 私は優李と奏が仲良く話しているところを見たくなかったので、足早に教室を出ようとしたそのときだった。



「優李先輩! 一緒にご飯食べましょー!」



 とても元気な声が教室内に響き渡ったので、私は吃驚して足を止めて声がした方を見る。優李を呼ぶその声の主は、とても可愛らしい女の子だった。

 確かあの子は、華ちゃんと仲良しだった好ちゃんじゃないかしら? そう思っていると、好ちゃんの後ろから華ちゃんが慌てながら教室に入ってきた。


 そっか。2人ともこの学校に入学してきたんだ。ぼんやりとそんなことを考えながら、優李たちを見ていると、私に気付いた華ちゃんが笑顔を消して、私を冷たい目で睨んできた。


 その視線からは、「なんであなたがここにいるのか」「ここから早く消えてしまえ」と言われているようだった。その視線から逃げるように、私は急いで学食へ向かった。




 -




 学校が始まって一ヶ月もすると、私と優李が別れたことはたくさんの人が知るところになった。今までずっと一緒にいた2人が、3年生になった途端に一言も会話をしていないんだからそう思われても仕方がないだろう。しかも、別れたことは事実なのだから。



「羽月ちゃん大丈夫? 元カレと同じクラスなんて気まずいよね。もう慣れたかな?」


「うん。大丈夫よ、ありがとう」


「だけどさ、元カノが同じクラスなのに、違う女の子たちとあんなにイチャつかなくったっていいのにね」


「それ私も思ってた。羽月に当てつけてるつもりなのかな?」


「山岸くんってそういうことする人じゃないと思ってたんだけどね。ちょっとイメージ変わっちゃったな」


「みんな私のことはいいのよ。だってもう別れたのよ。優李がすることに私が何かを求めることはできないし、止めることだってできないのだから」


「う〜ん。羽月は奥ゆかしいね、本当に。辛いことがあったら私たちにいつでも相談してね」



 私のことを心配してくれている雅と琴音、紗雪の3人は、高校に入ってからの友人で、私の親友と呼べる存在だ。この子たちがいるから、優李と奏を失っても、何とかこの学校でやっていけてると思う。だから一緒にいてくれることに、本当に感謝をしかない。



「そういえばさ、そろそろ体育祭があるじゃない? 実行委員って誰がなるんだろうね?」


「私は絶対にやりたくないなぁ。スムーズに決まるといいんだけど」


「えっと。実は私立候補してみようと思うよね。それで実行委員の副委員長とかになれたらなって」


「え? 羽月がやるの?」


「積極的に学校行事に関わるなんて珍しいね」


「もう3年生だしさ、何か一つでも思い出みたいなの作っておこうかな、って思ったのよ」


「あぁ、なるほどね! けど羽月ならしっかりとやるだろうから、みんな安心するよね」



 残りの2人も「うんうん」と頷いている。

 だけど、本当は思い出作りなんかじゃなくて、忙しくなればその分優李のことを意識しないようになるかと思ったからだ。さらに体育祭の実行委員になると、開会式と閉会式で壇上に上がったりするので、優李に私のことをまた見てもらえるかもっていう醜い下心まである。




 -




 体育祭実行委員になってからは、思った通り忙しい日々が続き、それは体育祭当日になっても変わることはなかった。というよりも、自分から仕事を探して忙しくしていると言った方が正しい。


 それはお昼の時間になっても変わらなかった。

 先生から荷物を届けて欲しいとお願いをされたので、近道の中庭を抜けようと思ったそのときに、優李たちが楽しそうにみんなでお弁当を食べている姿を見てしまった。


 なんで?

 なんでなの?

 優李、私がこんなに苦しんでるのに、なんであなたはそんなに笑ってられるの?

 あなたにとって私なんてその程度の存在だったの?

 私を捨てて、私の謝罪も聞かず、私を忘れてそのまま生きていくの?




 -




 体育祭が終わって、私は教室の中で一人座っている。

 窓の外を見ると、夕日が沈んで街を赤く染めていた。

 外を見ながら私は、お昼に見た優李の笑顔を思い出している。


 どれくらいそうしていたのだろう?

 気付いたら外は暗くなっていた。

 そろそろ帰宅しようと思いふとスマホを見ると、光輝からRINEが届いている。

 その中身を確認すると私は徐に立ち上がり、光輝の元へ向かうのであった。

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