第6話:体育祭②
「やっとお昼だー! 弁当弁当!」
いつもテンション高めの悟が、体育祭の影響かいつもより3倍増しで元気だった。だけど悟の気持ちもよく分かるな。何で体育祭の弁当タイムは、いつもの昼食よりテンションが上がってしまうんだろう。普段は結構大人しめの田貫さんですら、弁当を片手にウキウキしているのが見て分かる。
「とりあえず、中庭のスペースでシート広げて食べようぜ」
「良いねぇ! あそこなら毎年人も少ないし、ゆっくりみんなでご飯食べられるもんね!」
「だな! よーし、ちょっと先に行ってスペース確保してくるわ! 田貫さんも一緒に付いて来てくれよ」
「うん、わかった」
俺と奏を残して、悟と田貫さんが小走りで中庭に向かって行った。俺は2人が先に行ったのを確認すると、奏が持っていた一人分にしては大きすぎるお弁当箱を「貸して」と言って受け取った。
「今日はありがとな、奏。俺と華花の分までお弁当作ってくれて」
「ううん。良いんだよ! だって、ゆーくんのママが忙しいの知ってるし、一人分作るよりも意外と三人分とかの方が意外と作りやすかったりするしね」
両親は共働きなので、母親の負担を少しでも減らせるようにと、体育祭は毎年購買で弁当を買っていたのだが、今年は奏が俺たちに作ってくれることになったのだ。奏に悪いので最初は断ったのだが、「どうせ私の分も作るんだし遠慮しないでも大丈夫だよー」って言ってくれたので甘えさせてもらった。
「奏って料理本当に上手いもんな! だから今日のお弁当も、華花と一緒に楽しみにしてたんだよ」
「そんなに言ってくれると嬉しいけど、ちょっとプレッシャーだよ。だけど今日はいつもより気合入れたからね! たくさん食べてね、ゆーくん」
うぉぉ、奏の笑顔が眩しすぎる!
こんな幼馴染みがいてくれる俺は本当に幸せすぎるよな。まぁ、もう一人の幼馴染みには、信じられない裏切りをされてしまったのだが。それでも奏が支えてくれたお陰で、ささくれだった俺の心はだいぶ癒されていた。
-
「おーい! ここだぞー!」
「優李せんぱーい! 早く来てくださーい!」
俺たちが中庭に着くと、好ちゃんがピョンピョンとジャンプしながら俺に手を振っている。何あの天使? 可愛すぎませんか? 俺はポーッと見惚れてると、隣から「んんん〜〜〜」と唸りながら、俺の制服を摘んで膨れている奏がいた。
あっ、今の奏さんに触れたらダメだ。俺は身の危険を感じて、悟たちの元へ向かって走り出した。後ろの方から「あっ! ゆーくん!」と非難する声が聞こえるが振り向いたらダメだと俺のシックスセンスが囁いている。
「めちゃくちゃ良いところを取れたな!」
「ふふっ、そうだろ? 俺たちがついたときはまだ人が少なかったんだよ。小走りで行って良かったわ!」
「本当にここ凄いね! 梢ちゃんと悟くんありがとー!」
俺を急いで追いかけて奏が、感謝の言葉を伝える。
「奏ちゃん気にしないで。それよりもご飯食べようよ」
「そうそう! 早くお前らも上がってこいよ」
俺と奏がレジャーシートに上がると、タイミングを見計っていたのか、好みちゃんが立ち上がって俺のことを引っ張った。
「先輩、ここどうぞ。私の隣に来てください!」
「ありがとな、好ちゃん」
「じゃあ、私はゆーくんのこっち側に座ろうかな。華花ちゃんは、こっちにどうぞ。これだったらみんなでお弁当食べやすいもんね」
「わーい! かなちゃんありがとー」
「うぅ〜。ナチュラルに優李先輩の隣を……」
「よし! みんな座ったな! じゃあ早速お弁当食べようぜ!」
「うん。そうしよ! じゃあ、ゆーくん。私たちのお弁当開けちゃってよ」
奏が作ってくれたお弁当の蓋を開けると、その中にはハンバーグや鶏の照り焼き、タコさんウィンナーにポテトサラダと豪勢なおかずが並んでいた。
「めちゃくちゃ豪勢だな! 大変だったろ?」
「うわぁ! 凄い! かなちゃんありがとう!」
「うふふ、昨日から仕込み終わってたから、そんなに大変じゃなかったよ」
奏はそう言うけど、このお弁当を作るのが大変じゃない訳がない。俺もたまに料理くらいするから分かるけど、これを作ろうとしたらそれなりの時間がかかってしまうのは一目瞭然だ。
「おっ! 玉子焼きもある!」
「ゆーくんは甘めが好きだったよね? お口に合うと良いんだけど」
「美味い! このちょっと甘めの玉子焼きが大好きなんだよ。覚えてくれてたんだな、嬉しいよ!」
「ゆーくん好みの味になってて良かった」
「おいおい、2人だけの世界に入らないで、俺たちとも会話しよーぜ」
悟が俺たちを冷やかしてくると、「そ、そんなんじゃないから!」と真っ赤な顔になって奏が手をブンブンと振り回す。それを見た悟が「美山さん焦りすぎだろ」ってまた揶揄ってくる。恥ずかしさが頂点に来たのか、奏はついに「あうぅ……」と言いながら俯いてしまった。
「そんなに奏をいじるなよ、悟!」
「はは、悪い悪い。だけど、本当にお似合いカップルって感じだったぞ?」
すると俺の隣でずっとプルプルしてた好ちゃんが、急に俺に抱きついて来た。
「優李先輩は私とお似合いなんです! 奏先輩には渡しません!」
「おい、好ちゃん。ここは学校だし離れような、ね?」
「うぅ〜!」
ジト目で俺をめちゃくちゃ睨んでくる……。
おい、華花。好みちゃんのストッパーだろ? こんな時に何してるんだよ!
俺は好ちゃんを何とかして欲しくて、期待を込めて華花のことを見た。
「うぅ〜ん。とっても美味しい。うわっ! 何このハンバーグ? フッワフワなんだけど。しかも噛む度に肉汁がジュワッて出てくるし、こんなのもう飲み物だよー」
ダメだ。華花は奏のお弁当の前に屈してしまった。とりあえず俺は、これ以上波風が立たないように、好ちゃんを引き離してお弁当を手渡す。
「こ、好ちゃん。早くお弁当食べないと、そろそろお昼ご飯終わっちゃうぞ?」
「うーん。分かりました。じゃあ優李先輩私にあーんして食べさせてください」
「えっ? そ、それしないとダメなのか?」
「ダメです。ほら、あーん」
目を閉じながら、口をちょっと開けてご飯を待ってる好ちゃんは、シンプルに可愛かった。くっ、こんなの俺には抗えない。箸が勝手に動いてしまう。
パクッ
俺が葛藤している間に、奏が好ちゃんにタコさんウィンナーを食べさせていた。そして好ちゃんは目を瞑っていたので、奏の掟破りの行為を見ていなかった。
「ん〜! 優李先輩があーんしてくれたウィンナーは格別に美味しいです!」
ニッコニコの好ちゃんの笑顔を見て、胸がグサグサと痛んだがどうやら嵐は過ぎ去ったようだ。それにしても奏のやつ、好ちゃんへの当たりが厳しい気がするのは俺の気のせいだろうか? そう思いながら奏を見てみると「好ちゃん美味しいねー」と言いながら謗らぬ顔でお弁当を食べているのであった。
(奏……恐ろしい子………)
そして、そんな俺たちを見ていた田貫さんは、何とも言えない表情をして「楽しそうで何よりね」と呆れて言った。
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