第3話:秋吉好
【好の視点】
私が優李先輩を好きになったのは、小学校6年生のとき。
以前から華花とは当時から仲が良かったので、良く家で遊ばせてもらってたんだけど、そのときは「優しいお兄さんだなぁ」程度にしか思ってなかった。
そんな私が優李先輩を意識し始めたのは、ある事件がきっかけだった。
小6の夏休みのある日、私は図書館で時間を潰していたら、両親が経営している小さな会社の従業員に「パパが呼んでるから付いて来て」と言われて、そのまま家に連れて行かれそうになったのだ。
私はよく会社に遊びに行ってたし、その人のことも知っていたので付いていったのだが、何かがおかしいと途中で気付いた。私は必死に抵抗したんだけど、大人の男性の力の前では無力でしかなかった。苦し紛れに大きな声を出して悪足掻きをしていると、その声を聞きつけて駆けつけてくれた男の人がいた。それが優李先輩だったのだ。
優李先輩は男のことを殴りつけて、私のことを抱き寄せてくれた。そして「お前がやったことは全部スマホで撮影をした! 警察も呼んでるぞ!」って言うと、男は反対方向に向かって走って逃げていなくなった。
「華花の友達の好ちゃんだよね? もう大丈夫だよ。怖かったよね」
優李先輩の優しい声を聞いたら、私はもう我慢ができず先輩にしがみついて大泣きしてしまったのだ。
「うっ……うぅ……うわぁぁん………怖かった。怖かったよぉ。ママとパパにもう会えなくなっちゃうかもって思った。もうダメだって思ったの……」
優李先輩は警察が来るまで優しく私の頭を撫で続けてくれた。
それから私の中で優李先輩はヒーローになり、気付いたら一番好きな人になっていた。
-
だけど、優李先輩には彼女さんが既にいることを、華花から聞いて知っていた。私もチラッと見たことがあるんだけど、私なんかじゃ到底太刀打ちもできないくらいの美人さん。
それでも諦めきれない私は、「可愛くなったら振り向いてくれるはず!」と思って、可愛い髪の毛にするためにちゃんとした美容院に行ったり、もっと痩せるためにダイエットも頑張った。私はご飯を食べるのが大好きだったので、ダイエットはとても大変だったけど、これも優李先輩に振り向いてもらうためだと思って我慢した。
その甲斐もあって、中学に進学するとたくさんの男の人から告白してもらえるようになった。私が一番好きなのは優李先輩だけだったので、全員お断りをさせてもらったが、それでも私に自信を持つことはできた。
-
そして高校に入学する前に、私は優李先輩が羽月先輩と別れたことを華花から聞いた。え? ひょっとして、これは神様からの高校合格のプレゼントなのかしら? だって、こんなタイミングある? 私は神様がくれたチャンスを逃すまいと、高校に入学したら思いっきり優李先輩にアタックすることを誓った。
だけど、あんなに仲良しだったのに、なんで別れちゃったんだろう? 華花に聞いても、嫌そうな顔をするだけで全然教えてくれないし……。うーん、まぁ、過去のことは良いか! 私が傷心の優李先輩の支えになればいい話だもんね!
よーし! 入学最初の目標は、優李先輩と一緒に学食ランチだ!!!
-
「うふ……うふふふふ…………うふふふふふふ………」
やった! 今日はずっと大好きだった優李先輩と一緒に、目標だった学食ランチをすることができた! さすがに2人きりにはなれなかったけど、みんな良い人たちだったからとっても楽しかったな!
華花から聞いてた通り、羽月先輩とは本当に別れちゃってるみたいだったし、私にも本当にチャンスがあるかも! だけど、先輩のもう一人の幼馴染み、奏先輩がライバルになりそうな予感がする。
羽月先輩とはキャラが全然違うんだけど、奏先輩も正直めちゃくちゃ可愛いんだよね……。羽月先輩が美しいモデルさんタイプだとしたら、奏先輩は朝の連ドラ女優みたいな透明感と可愛らさしさがあるんだよ。はっきり言って強すぎて卑怯なレベルですよ、あの可愛さは。
ムムムムム。
それにしても優李先輩の周りには、なんで普通じゃないレベルの可愛い子が集まってくるんだろ。ランチに一緒にいた田貫先輩だって、見た目はあの2人には劣るけど、素敵な空気を纏っている方で、とても可愛いらしかったし……。
うーん。普通に戦っても勝てる気がしない……。ただでさえ年下っていうハンデを抱えてるのに、あんなに可愛い人が幼馴染みってチートだよぉ。
あー、ダメダメ! 弱気・ダメ・ゼッタイだよ。ここで怖気付いたら、私の負けが確定しちゃうんだから。
優李先輩が卒業するまでの間に、華花の友達ポジションから、一人の女の子にクラスチェンジして、思い切って告白してやるんだ! 頑張れ! 頑張れ、好!
(本音を言うと、優李先輩から告白して欲しいんだけどね……)
***
【華花の視点】
好ちゃんが、ゆー兄ちゃんのことを好きだったのは知ってるけど、まさかお昼休憩に3年生の教室に乗り込むっていう強硬手段を使うとは思わなかったな。小学生のときゆー兄ちゃんに助けてもらってから、気付いたら猪突猛進タイプにクラスチェンジしちゃってたんだよね。あんなにも穏やかで柔らかな空気を纏ってた女の子だったのに。
……恋する女の子って凄い!
ちなみに私は、好ちゃんのことを一番身近で見て来たっていう自負があるんだけど、あの時から好ちゃんはゆー兄ちゃんに振り向いてもらうためにめちゃくちゃ努力をしていた。
私としては、ゆー兄ちゃんは羽月さんと結婚して欲しいって思ってたんだけど、好ちゃんの努力を見ていたら、応援する以外の選択肢がなかったんだよね。だって、愛が人を変えるところをまざまざと見せつけられちゃったんだから。そんなのを見て応援しないなんて嘘だよ。
だから、ゆー兄ちゃんから羽月さんと別れたって聞いたときは、悲しかったけど好ちゃんやったね! って同時に思ったんだ。まぁ、ゆー兄ちゃんには、まだかなちゃんもいるから攻略は難しいかもなんだけどね……。
***後書き***
希望が多かった1日2話で今日から更新をします。
『7:00/17:00』の更新になります。
もしイレギュラーがある場合は、後書きなどでご案内します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます