新しい日常
第1話:進級とクラス替え
あー、今日から学校かぁ。全然気乗りしないわ……。
俺が一人で学校に向かっていると、後ろからいつもの陽気な感じで悟が声をかけてきた。
「おぅ! 優李ー! おっはよーさん」
「おぅ。おはよ」
「あれ? お前今日はどうしたのよ? 坂下さんと一緒に登校しなかったのか?」
俺はズキリと胸が痛むのが分かった。事情を知らない悟に悪意がないは分かっているので、俺は湧き上がってくる感情を打つけることもできない。
「あっ、あぁ。羽月とはもう一緒に登校しないことになったんだよ」
「え? そうなの? 喧嘩でもしたのか? それともまさか……」
「まぁ、お前が想像してる通りだよ。俺と羽月はもう別れたんだ」
俺がそう言うと、いつも快活な悟がとても落ち込んでしまった。
「悪い。お前の気も知らずに勝手なことを言っちまったな……」
「いや、お前は悪くないよ。事情を知らなかったら不思議に思って当然ことだから。だけど、俺と羽月が別れたことを無闇に広めないでくれな?」
「あぁ、それくらいは弁えてるつもりだよ」
「人ってさ、失恋を乗り越えて人間的に大きくなってくると思うんだよ。悟もそう思うだろ? あっ、お前は失恋する前に彼女がいたことなかったな、悪い!」
「うっせーよ! ちくしょー、高校のうちに彼女を絶対に作ってやる!」
感情の起伏が激しいこいつの名前は
「そういえば今日はクラス替えがあるな! 優李も文系進学コースにしたんだよな? また一緒のクラスになれるといいな!」
「あぁ、もしまた同じクラスになれたら3年間一緒ってことになるな」
「そうなるといいよな! 後は
楽しそうな悟とは裏腹に、俺はクラス替えの結果を見るのが正直億劫だった。というのも、羽月も俺と同じ文系進学クラスを選択していたからだ。もし同じクラスなんかになったら、正直ツライどころの話じゃない。一番最悪なのは、俺の親しい友人が一人もいない状態で、羽月とだけ同じクラスになることだ。それだけは避けて欲しい。神様……本当にいるならそのパターンだけはなんとか回避してください………。
-
クラス替えの結果は昇降口に貼り出されていた。周りには人だかりが出来ていて、自分がどこのクラスになったか探すのも一苦労だ。ようやく貼り紙を見た俺たちは、向き合ってハイタッチをする。
「やったな! 一緒のクラスだぞ、優李! これで3年間同じクラスになったな!」
「おう! また一年よろしくな! あっ、奏も一緒のクラスだわ」
あとは、羽月が別のクラスであることを祈るだけなのだが……あっ、坂下羽月って書いてる……。付き合ってるときは一度も同じクラスになったことなかったのに、なんでこのタイミングで同じになるんだよ。
急に落ち込んだ俺を見て悟は不思議がっていたが、貼り紙を見て全てを察した。
「ま、まぁ、俺たちがいるしさ。大丈夫だって。俺も出来る限りフォローするからさ、元気出せって」
「悟ぅ! お前だけが頼りだからなぁ」
「ちょっとちょっと。私のことを忘れないでよね!」
俺たちを責める声が聞こえたので、後ろを振り向くとほっぺたをプクッと膨らませて腕を組んでる奏が立っていた。
「当たり前だろ。お前が一番だよ。一番頼りにしてるからマジで頼むぜ」
「うーん。そこまで言うなら仕方ないかな? 私もゆーくんのことを助けてあげるよ」
ニコッと屈託のない笑顔で俺を見上げてくる奏にドキッとしてしまった。
そんなの不意打ちすぎるだろ……。
ドキドキしてる俺を尻目に奏は「梢ちゃーん! また一緒のクラスになれたねー!」と仲良しの
「奏ちゃん、また一緒になれて嬉しいよ。あとは山岸くんも三島くんも一緒だね。これから一年間また仲良くしてね」
田貫さんは文芸部に所属している、生粋の文学っ子だ。ちなみに田貫さんとも一年の頃から同じクラスだったので、今いる4人は3年間ずっと一緒ということになる。
俺たちは同じクラスになれたことを一頻り喜んでから、新しいクラスに向かって歩き出した。なんかいつもと違う廊下を歩いていると、新鮮な気持ちになって気分が上がってくる。
すると奏が「ちょいちょい」と言って俺の隣に近づいてきた。
「羽月ちゃんと同じクラスになっちゃったね。ゆーくん大丈夫?」
「まぁ、覚悟はしてたし、なんとかなるだろ。悟や田貫さん、それに奏も一緒のクラスになってくれたしな」
「大丈夫ならいいんだけど。絶対に無理したらダメだよ?」
「あぁ、ありがとな。あっ、あと悟だけには羽月と別れたこと教えたから。あいつのことだから胸の内に閉まっておいてくれるだろうしな」
「うん。悟くんなら安心だよね。もし羽月ちゃんとゆーくんが別れたことが広まったら、多分学校が大騒ぎになっちゃうもんね」
「まぁ、羽月は美人だからな。あいつのことが好きな男なんてこの学校にゴロゴロいるだろうし」
「うん。それはそうなんだけど、ゆーくんの周りも結構騒がしくなっちゃうと思うよ?」
「俺も? 何言ってるんだよ。俺は大丈夫だろ」
俺が笑っていると、奏は呆れ顔をしながら、「仕方ないな」と言って笑い合ってくれた。
自分でも無理してテンションを上げてるところがあったけど、それを承知で乗ってくれる奏の存在は本当にありがたかった。
そんな俺たちのことを、柱の影からジッと視線を送っている一人の女性がいた。しかし、新学期特有の空気感に酔っていた俺では、その視線に気付くことは出来なかったのだ。
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