最愛の幼馴染みと親友に裏切られた俺を救ってくれたのはもう一人の幼馴染みだった
音の中
裏切りと決別
第1話:疑惑
「もー! あともうちょっとで到着だったのに、お財布を持ってるかくらいちゃんと確認してから家を出なくちゃダメでしょ!」
「あー、ごめんって! 何度も謝っただろ。部屋に取りに行くからここで待っててくれよ」
「これで限定ロールケーキが買えなかったら、ゆーくんのこと許さないんだからね」
幼馴染みの
しかし、今でこそプリプリとしているが、本気で怒っているわけではないと俺には分かってる。
奏とは小学校4年生のときに、地元のサッカークラブで出会ったからの仲だ。小学生のときは、髪の毛をベリーショートにしていたので、見た目がまるで少年のようだったが、中学に入ると髪の毛をミディアムヘアまで伸ばしたことで、とても可愛らしい女の子に華麗なるジョブチェンを果たしたのだった。そんな奏のことを周囲の男たちが放っておくわけもなく、数多くの男子から告白されていた。
中学を卒業してからも、俺と奏は同じ高校に進学、そして2年連続でクラスメイトになれた。さらには、お互いサッカー部に在籍しており、ひょっとしたら高校に入ってから一番同じ空間にいるやつかも知れない。
それくらい気心が知れたやつなのだから、奏がどれくらい怒ってるかなんて手に取るように分かってしまうのだ。
-
慌てていた俺は、奏にドアの前で待ってくれとお願いして、勢いよく家のドアを開けた。すると家の奥、具体的にいうと俺の部屋から、ドタドタドタと大きな音が聞こえてきた。
驚いた俺と奏は一瞬固まってしまったが、すぐに我に返って俺の部屋の前まで行き、躊躇せずにドアを開けた。そこにいたのは泥棒………なんかではなく、俺たちの帰りを待っていた羽月と光輝の2人だった。
「お前たち、ドタバタと大きな音を出して一体何してたんだよ?」
特に怪我などはしてなかったようなので、俺はホッと一安心した。
「いや、なんだ……虫がな、そう、でっかい虫が急に出てきたから2人でなんとかしようと格闘してたんだよ!」
「う、うん。そうなの。けど光輝くんが窓の外に捨ててくれたからもう大丈夫よ」
光輝はいつものことだけど、いつも冷静な羽月がアタフタしながら「虫がー」と、良く分からないことを言ってるのが面白くて、「なんだよそれ! ハハハハハ」と大爆笑してしまう。
それを見た2人はどこかホッとした表情で、「だよな」と一緒に笑っていた。
部屋の中にいたもう一人は、2人目の幼馴染みでもあり、最愛の彼女でもある
「俺が忘れ物をしちゃってさ、今取りに帰って来たんだよ。つか、ロールケーキが売り切れるからまた急いで行ってくるな! お前らまたドタバタ暴れて部屋を汚すなよ!」
「おぅ! 気をつけてな!」
「行ってらっしゃい。待ってるわね」
俺は2人の言葉を聞いて、奏に「行こうぜ」と声をかけると、奏は「えぇ」と心ここに在らずという感じで相槌を打つ。俺は、そんな奏の態度に疑問を持ったが、特に気にせず玄関へ向った。脳天気な俺は、さっきのやり取りで、奏が一言も声を出さなかったことに気付いていなかったのだ。
まぁ、このときに何か怪しいと思っても何もかもが手遅れだったんだけどな。
-
「あいつら人の部屋で暴れてるなんて何してんだよなぁ!」
「うん」
「俺の部屋だからってあいつら好き勝手しすぎなんだよ。一度ビシッと言ってやらないとダメかもな」
「そうだね」
何とかラス1のロールケーキを購入できた俺は、ホクホク顔で奏と家に向かって歩いている。だけど、そんな俺とは正反対で、奏はずっと浮かない顔をしていた。
奏が大好きな限定ロールケーキが買えたっていうのに、急に元気無くしてどうしちまったんだ? やっぱりめちゃくちゃ走らせたから怒ってるのかな……。
「奏どうした? 走らされたのがそんなに嫌だったのか?」
「あっ、ごめん。違うの。ちょっと考え事してただけ」
「考え事って急だな。さっきまで俺にブーブー文句言ってたのによ。けど、奏がそうなることって珍しいよな。もし俺に話して気が楽になるなら、いつでも声掛けてくれよな。力になるからさ」
「うん。ありがと。急に変な感じになってごめんね。考えがまとまったらゆーくんにちゃんと相談するから」
奏はどこか思い詰めた表情をしながら微笑んだ。
俺はそんな奏を見て少し動揺をしてしまう。奏は明るく元気で、悩みごとを前向きに捉えられる性格をしていた。そして、良くも悪くも自分の思いを、なんでも真正面から伝えて来てくれる子だったからだ。こんな風に言い淀む奏を俺は見たことがなかった。
さっきまではあんなに楽しそうだったのに……。
奏は部屋に帰ってからも、俺たちの一歩後ろにいるような距離感で終始していた。
***
【奏の視点】
あれは一体なんだったんだろう。
忘れ物を取りに帰ったときに、羽月ちゃんと光輝くんはとても慌てていた。
本人たちは「虫が出た」「窓から投げたから大丈夫」と言っていたが、窓は開いていなかったし、窓のすぐ下にあるベッドが乱れていなかったのは、どう考えても不自然だ。
さらに私がおかしいと思ったのは、羽月ちゃんの洋服が若干乱れていたこと。私たちが家を出る前は、スカートにシャツがキレイにインされていたが、私たちが忘れ物を取りに戻ったときは、羽月ちゃんのシャツが少しスカートから出ているのが見えてしまった。
実は私は一つの答えに辿り着いている。だがそれは、考えるだけでも悍しく、嫌悪感を抱いてしまうものだった。
「羽月ちゃんひょっとして……」
私は頭の中にある考えを振り払うように頭をブンブンと横に振った。
まさか羽月ちゃんに限ってそんなことはないよね。だって羽月ちゃんとゆーくんはずっと一緒だったし、特にカップルになってからは誰かが入る余地のないくらい幸せそうだったんだから。
「このことをゆーくんに言った方がいいのかな……」
羽月ちゃんのことは信用している。
だけど、どうしてもあの時に二人には違和感しかなかった。そして私はその違和感の正体に辿り着いている。
「羽月ちゃんが浮気をしているかもしれない」
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