静かなる魔王。〜魔王の娘は次期魔王? 漆黒の魔王シズカ。能力チートの絶対魔王は平凡な冒険者として平和な世界でスローライフを送りたい〜
友坂 悠
第1話 黒髪のシズカ。
「だからさ。最初っから全力でこいっていうの!」
そういつもの口癖を叫ぶリーダーのドワンさん。
周囲には魔物の気配はもう無い。あらかた倒した後だ。熱血漢のドワンさんにしてみれば許し難い事なんだろう。遊ばれている様で。
魔人クレインが両手を広げる。
「フフ。まあ褒めてあげましょう。あれだけの魔物を屠って尚そうして虚勢を張っていられることを。お仲間の人達も満身創痍ではないですか?」
うん。こちらの戦力はもうぼろぼろだ。
魔術師のエレナは魔力切れを起こしかけてる。重戦士のデメトリウスの盾は崩れ落ち、剣も折れてしまっている。白魔道士のマリアはもう自分の傷を回復する余裕もない。
あたしは。
ポーターのあたしは皆の荷物持ちで戦闘にはほぼ参加しない。補助メンバーだ。
一応自分の身くらい自分で護れるようはしっこいのを見込まれて雇われてるわけだけど。
持ってきたポーションの類もほぼ使い切った。あとはHP回復ポーション一個のみ。
「おい! シズカ! ポーションよこせ!」
ドワンさんはクレインの放つソニックブレードを左右に避けながらあたしにそう叫んだ。
彼のHPもかなり減ってる。最後のポーションを呑んで賭けに出るつもりだろう。
うん。しょうがない。
あたしは彼の右手に向かって走る。
タイミングを読んでちょうどあたしと接触した隙に手渡せたポーションを、ぐいっと呑む彼、戦士ドワン。
命の炎がググッと燃えて、彼の愛剣、グランドソードにそのエネルギーの塊がまとわりつき。
「秘技、天元突破!」
魔人クレインの喉元にまっすぐにその剣を突き立てた。
「フフ。無駄無駄無駄ぁ!」
右手の掌だけでその剣を受けた魔人クレイン。はう完全に実力が違いすぎる。
剣が弾かれると同時にクレインの左手から放たれたソニックブームがドワンさんの身体を吹き飛ばした。
そして。
ブン! と手を振ると同時にあたしたち全員を弾き飛ばすその衝撃に。
パーティー全滅?
そんな結末が見える。
■■■■■■■■■■■■
「しょうがないなぁ」
よっこらしょっと起き上がるあたし。うん。みんな気絶しているだけでまだ死んで無い、か。
背負ってたリュックをよっこらとおろす。ドンと地面に落ちたその荷物が地面を揺らした。
「おや? その荷物のおかげで衝撃に耐えたとでも言う事でしょうか?」
まあクッションになるような荷物ならそう言う事もあるかもだけど?
「あなたは戦闘員では無さそうですし、見逃してあげても良いのですがね」
そんなことを言う魔人クレイン。まあね? 魔人がいるって言うこのダンジョンにのこのこやってきたあたしたち人間の方がどちらかと言ったら悪いよね。
ここの魔物はこのダンジョンから外に出て人間を襲うわけでもなく、ただひっそりと暮らしてたんだもの。
「ごめんね。あたしはあなたたちの生活を脅かしたいわけじゃ無いんだけどさ。でも仕事なんでね」
「ん?」
「この人たちを無事に連れて帰らなきゃ、報酬も貰えなくなっちゃうから」
あたしの身体が漆黒に染まる。身体中から吹き出した黒い粒子が霧の様にあたしを覆い。それが晴れたとき。
漆黒の鎧に包まれた姿に変化した。
「お前は!」
「ごめんね。命を奪ったりはしないからさ」
鬼の様なツノ。全身を覆う黒いエナメル質な甲冑。そこからなびく漆黒の長い髪。
手には黒光りした刀身の剣を携え。
一瞬で勝負が決まった。
あたしの剣先が彼クレインの表層のマトリクスを切り割いて。
戦闘不能に追い込んだ所で振り返る。
「悪いね。この人達は連れ帰るから」
そう言って。あたしは荷物を背負い直し残りの三人全員を担ぐ。
そのままダンジョン入り口手前まで、転移した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます