第37話

咄嗟に刀を抜こうとすると、透百合が敏捷と横に移動し俺の前に来ている。足を引っ掛け、手を掴み捻ると刀を床に落とす。そのまま背負い投げで床に叩きつけた。

投げとばす刹那に身体と共に黒髪が宙を舞っていく様子は、とても美しく波打っていた。

後ろ三人もその様子に怖気つき、立ち止まる。

「この程度なら、体術で十分よ」

振り向き様に見下ろしながら言葉を捨てる。

「これも没収ということでいいわよね」

床に取り置かれた刀を拾うと、慣れた手つきで鞘と共に腰に引っ掛る。

この様子からでも鍛錬していることが見て取れる。何しろ動いた瞬間を見失っていたくらいだ。

「待て...」

「これ以上聞く耳を持たないなら、私も刀を使うけど?」

「くそ...」

立ち上がることなく、そのまま仰向けに天井を眺めている。

「失礼しました」

戦闘意識が無くなるののを確認したのか、一つ息を吐き、華麗な足取りで表情を変えずに出て行った。

透百合の姿が見てなくなっても教室内は静謐としたままで、誰も動こうともしない。

桑原たちをただ一点に見つめて。

集団監視に耐えきれなくなったのか、息を漏らしながら忙しく立ち上がると

「桑原、根性だけは認めてやる。残念だったな」

淡々と抑揚もなく桑原に告げた。

「...二つ聞きたいことがある」

「何だよ」

「先生はさっき、茜澤に退学を伝えていましたよね。おかしくないですか?」

「うん?僕は最初から君たちに言っていたんだけれど?当たり屋紛いなこと、そして今回二つも問題を起こしてくれたね」

確かに俺の後ろに桑原が居た。微笑んで見据えていた違和感が晴れる。俺に言ったのではなく桑原たちへの諫めだった。

「...なんだよそれ」

拳を握りながら歯軋りを立て、怒りを露にしていく。

「じゃあ透百合なんてやつ、どうやって包め込んだんだ?」

「何もしてねーよ。俺にもわからない」

「俺には関係ねえってことか。そりゃそうだよな」

「いや、そういう...」

「戻るぞ」

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