第12話

「でも樫谷君は分かってない。私は茜澤君が助けてくれたって信じてるもん...」

藤桜は首を振ると悲しげな目線をこちらにぶつけてきた。

「いいんだよ。要するに俺がこのテストで一位取ってポイント稼げば良い話。こんな最下位のチームにいて溜まるか」

「ちゃんと聞けてなかったけど茜澤君はAグループってどういうことなの?」

「...入学試験では筆記は1位、実技もAだったんだ。けど、不正と言われてEグループに落とされた」

「え...そうなの...?」

「さすがにこれは笑うだろ?嘘だって」

「...ううん。笑わない。信じる」

「そんな何でも鵜呑みにしてたら騙されるぞ」

「茜澤君だから信じる。本当だって」

声は頼りなく、どこか逡巡しているように思われる一方で一線を見つめるような硬い表情があった。

「もし私も疑われた時があったら信じてね」

ここまで純粋な子が疑われることなど、それこそ信じ難いわけだが。

「ああ、もちろんだ」

俺のたった一言に嬉しそうに笑顔を見せる。

ただの臆病な女子生徒だと思っていたが、表情豊かな女の子。第一印象だけではわからないことが多い。

「樫谷君たちとは一緒に勉強しないの?教えてあげたり」

「絶対嫌だよ。俺はあいつを助けないと言ったからな。知らねえ」

「そうだよね...」

図書館閉館の放送がかかる。いつの間にか6時近くになっていた。

外を見ても冬と比べて、日の入りは遅く明るいままでどのくらい経ったのか分かりにくい。

学習するには最適な場所でもやはり集中力は簡単に途切れていく。

一日にいくつも習得しようとしても、簡単にはいかないわけで、因数分解を取得することができたのだから御の字だ。

「戻るか」

「うん。明日は英語頑張る」

登ってきたときと何も変わらない階段を降りるのに、やけに軽く感じた。

次の日は予定通り、同じ場所で英語を勉強。こちらも文法や単語を教えていると、簡単に実力が付いていったが、完全習得するまでは二日ばかりかかった。

改めて要領の良さを感じた。

残りの4日間、休日二日を挟んでテストになるわけだが、図書館は空いている。

他の生徒は自室で学習しているのだろうか。

樫谷、せめて藍水だけでも誘おうと藤桜が提案はしたが、どうにも尾を引いており行動には移せなかった。

一週間通い詰めで、同じ席に座るため司書の先生にも顔を覚えられているようだ。

しかし俺たちを見るたび、顔が険しくなり歓迎されていないような雰囲気が伝わる。

これもEランクという理由からだろう。

勉強しに訪れているのだから褒められるべきではないのだろうか。

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