第7話

鞘に手をかけ、構える姿勢を取るが、ふと考えた。

だがもし俺があいつらを怪我をさせ、報告されてしまったら俺たちの責任だ。

一方で逃げられる場面でもない。

正当な理由さえあれば、多少の傷害は許される。

俺が斬ってしまっても責任を免れるが、こんな落ちこぼれの弁論を信じてもらえるだろうか。

なら相手の戦意を果てさせるしかない。

手順を決めこちらへ走ってくる一人を迎え撃つ。

だが、いきなり方向転換した。

追視した先は藤桜の姿。

『え...?』

藤桜には何が起こったのか理解していないようだったが、涙が頬を伝っているのが見える。

ーーーそして力一杯振り下ろされた。

「...くそ」

俺と相手の刃が垂直に重なっていた。

全体重を乗せた重圧に耐え、横に振り払う。

一瞬でも瞬発が遅れていたら、行動を違えていたらと悪寒が走る。

殺さないと言った割には大胆なことを仕出かす。

素早く間合いを取ると後ろに佇むやつに声を振るった。

「樫谷聞こえてるか?」

「...あ、おう」

「藍水と藤桜と一緒に出来るだけ離れてくれ」

「お前一人じゃ無理だろ...もう金でも渡して」

「だ~から、俺を舐めるな。とにかく離れて見てろ」

「......」

何も言わずに藤桜をおんぶし藍水の手を取り後ろに下がっていく。これで少しは広く使える。

「一人とは舐められたもんだな。おい、あの逃げた奴ら追いかけろ」

「ふっ」

「あ?何笑ってんだよ!」

「いや、追いかけるとか言ってここから逃げるんだなと思って」

「何言ってんだ?じゃあわかった。お前からこの4人で叩き潰してやるよ。後悔させてやる」

睨むと同時に一斉に刀を抜く。俺は刀を滞納し、代わりに木刀を構えた。

良かった。もし一人でも後を追っていたら樫谷たちが戦えるかもわからない。

「木刀...お前調子に乗るなよ」

駆け足で上から強く振り下ろす。袈裟斬り。

遅すぎる。

刀を振る際に息も全く合っていない。簡単に避けることができた。

「嘘だろ...」

「それが本気か?」

横に薙ぎはらう。

唖然とし、反応することができないまま、柄に大きな衝撃を加える。

力も入っていなかったのか、刀は鮮やかな放物線を描きリーダーらしき生徒の後ろの地面へ叩きつけられた。

残る三人は、その光景に目を見張っていた。

「まぐれだろ!もう三人で行くぞ」

両脇から刀を持ち上げ走り出す。斬りかかる数メートル前から持ち上げていては疲労が溜まり効率が悪すぎる。

併せて次にどこに打ち込んでくるのか読めるほどの欠陥な動き。

「はあ...」

ついため息が出てしまった。

何のまよいもなく躱すと、両端の刃が交じり重なり高い金属音が響き渡る。

チームワークの欠片もない戦い方だ。

三人目は近づけないようにする為か、一心不乱に振り前に進んでくる。

振り回していることに夢中になり前が見えていないのか、背後につくとキョロキョロ視線を迷わせている。

「弱っちいの」

透かさず蹴りを入れると、前のめりになって倒れた。

「こんなもんか...もういいよな?」

座り込むリーダーの眼前に刀を突きつける。

「...降参だよ。お前...なんでEグループのくせにそんな強いんだよ」

顔を蹙めながら問い質してくる。

「知らね」

振り返っても樫谷たちの姿はなく、風によって枝葉が震えているだけだ。

「お前、名前は?」

「茜澤拓真」

それきりリーダーも口を閉じ、追いかけてもこなかった。

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