第4話
幼い頃は好きだった。
きっかけは14年前、彼の誕生日会。一目見た時、胸が高なった。
そのせいで最初の挨拶は失敗。恥ずかしいやら悲しいやらでその後1週間は塞ぎ込んじゃって……
でもそれ以上に、お父様になんで元気がないの? って聞かれた時に
「好きな人に恥ずかしい格好みせちゃったの……」
と答えた時の方が印象的だ。
「お前に好きな人なんて居ない。忘れなさい!!」
これまで聞いたことの無い口調だった。それから知らされた許嫁の存在。
許せなかった。あのクソ王子を暗殺してしまおうかしら? みたいに思ったこともあったけれど、そんなことをしても彼と結ばれることは無い。
だからずっと、この先死ぬまで王子の妻として生きて行くんだって覚悟を決めたのに……
学校に入学してから、いえ…… 彼女と出会ってから彼は変わった。
それまでずっとしていた影のある表情を、彼女の前ではしなかった。
だからそう。私のモノでは無いのに。諦めた筈なのに……
彼が学園から居なくなった時を見計らい、クソ王子と彼女をくっつけてやろうとしたの。
その為に、ある日彼女を放課後に呼び出した。
「ねぇあなた。最近仲がいいけど…… ラダマス彼のことが好きなの?」
って。自分で自分を笑っちゃう。
そしたら
「えっ、急にそんなこと言われてもぉ……」
「勿体ぶらないでさっさと言いなさい!」
「……私ラダマス君じゃなくって、貴女にお近付きになりたくって」
「え?」
「小さい頃に街で見掛けてから、ずっと憧れでした! 好きでした!」
「へっ!? 急にそんなこと仰られましてもぉ……」
ってね。そんなこと言われたの初めてで、思わず変な感じになってしまった。
それからはあっという間だった。
私は好意を伝えられた経験が無くって。女の子だから大丈夫だって。
深みにハマってしまった。
彼女も私といるために、自分から王子に好かれに行ってくれた。
そして昨日の事件が起こった。
私を斬りつけてきたのは好きだった人。
ショックのあまり斬られる前に気絶しちゃって。
もうナギに会えないのかと思うと悲しくて。
そう、私が最後に思ったのはナギのことで、目覚めた時に愛を囁いてくれた彼ではない。
「ずっと前から、初めて会った時からお慕い申し上げておりました。」
あっ、気持ちは繋がってたんだ。
ちょっと嬉しかった。だけどそれ以上に悲しかった。
もうこの人の物にはなれない。こんなに頑張ってくれたのに。
「それは…… 駄目よ。私と貴方じゃ……! ムグッ」
強引に閉じられた唇は、好きな人のとは全く違っていた。
幸せが感じられなかった。
あんなにも欲しかったものなのに
「いやっ!!」
手で彼をどかし、口から漏れたのは拒絶の言葉だった。
―――――――――
今日、彼女が彼と結婚した。
私たちの仲が悪いと思っているラダマスによって私は侍女の格好で彼女を迎え入れる。
やったじゃない私。
王子でしようと思っていたことが、王子よりもマシな人でできた。
だけど私はナギを見誤った。彼女は前が見えていなかった。
彼の隣にいた私には目もくれず、持っていたナイフでグサリと。
彼の断末魔を聞き戻った私に見えたのは、崩れ落ちて私を呼ぶ愛しい彼女と
ピクリとも動かず赤い染みを周囲に広める愛しかった彼だけ。
どうにか彼女を立たせて、甘美な言葉を囁いて。
もうこの国には居られない。愛しい人は人殺し。
これから多くの壁が私の前に立ち塞がるでしょう。
きっと大丈夫ではない。心のどこか、14年間私を支えていたナニカが崩れて。
流れる涙はたった1滴。私が彼にあげられる最後のもの。
あぁ、ナギは美しい。だってこんなに…… なにも考えずに、幸せそうなんだもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます