この兄妹は自分がシスコン(ブラコン)だということにまだ気づいてない

檸檬茶

第一話


 月曜日の朝。俺こと、相沢友義あいざわともよしは人の温もりを感じ、目を覚した。布団を捲ると黒髪をサイドテールにした、小柄で制服姿の少女が右腕に抱き着き、すやすやと可愛いらしい寝息をたてて寝ていた。

 この寝ている少女の名は相沢雨音あまね。一つ年下の妹だ。

「起きろ雨音、朝だぞ」

「う~ん、もうちょっとおにいちゃんの温もりを感じてたい……」

 見ての通り、雨音はブラコンだ。それも超が付くほどの……。

「そんなこと言ってると母さん来るぞ」

 そんなブラコン妹はこの様子を家族には見られたくないらしいので、母さんの存在をチラつかせてみる。

 現在の時刻は六時四十分。いつもなら母さんが俺を起こしにくる時間だが、今日は仕事で家を空けているため母さんは来ない。

「今何時!?早く部屋に戻らないと!!」

 まんまと嘘に騙されて飛び起きた雨音を見て、少し笑ってしまう。

「もー!!騙したな~、おにいちゃん!!」

 ほっぺを餅のようにぷくーと膨らまし、ぷりぷりと怒っているが全く怖くない。むしろ可愛いと思ってしまう。

「ごめんごめん、今日の帰りにでも最近できた美味しいって噂のケーキ買うからそれで許してくれ」

 そう言いながら雨音の頭を撫でると、雨音は餅のように膨らませたほっぺを萎ませ、にんまりと嬉しそうに笑った。

「そんなにケーキが嬉しいのか?」

「もちろんケーキも嬉しいけどそれ以上におにいちゃんに頭撫でられるのが嬉しいの」

「なるほどな……」

「それでさ、制服似合ってるか見てほしいんだけど」

 そう言って雨音はベッドから降り、俺の正面に立った。

 毎日似合ってるか聞いてくるが飽きないのだろうか?

「どう?可愛い?似合ってる?」

 よくある白いセーラー服で、一学年の印である赤の三角スカーフを付けている。もちろん雨音は可愛く着こなしていた。

「可愛いし似合ってるぞ」

「えへへ、ありがとうおにいちゃん」

 照れたように笑い、

「じゃあわたしは朝ごはん作ってくるから早く着替えて下に降りてきてね」

 そう言って、雨音は満足そうに俺の部屋から出ていった。

「着替えますか」

 と独り言を呟き、クローゼットから制服を取り出し、それに着替え、学校用のカバンを持って部屋を出た。そして人一人分の階段を降りてすぐに右側にあるリビングに入った。

「あ、まだ朝ごはん出来てないからソファーに座ってテレビでも見て待ってて」

「ん、了解」

 ソファーに座ってからテーブルの上にあるリモコンを手に取り、テレビを付けた。テレビでは朝のニュースをやっており、今は芸能人が起こした不倫騒動についてやっていた。

『誠に申し訳ございませんでした』

 不倫をした芸能人が深々と頭を下げている。そこにカメラのシャッターを切る新聞記者達。連日同じ内容の不倫のニュースに俺は飽き飽きしているため、すぐにチャンネルを変えた。

 次の番組では天気予報をしており、今日は快晴だそうだ。

「おっ、今日は晴れなんだ、やったね」

 突然後ろから声が聞こえたかと思うと、雨音が背後から抱きしめてきた。

「朝食は出来たのか?」

「うん、出来たよ、ほら早く食べよ?」

「おう」

ソファーから立ち上がり、ダイニングテーブルの椅子に座る。今日の朝食は卵焼きに、鮭の塩焼き、白米そして味噌汁。

「いただきます」

 まずは卵焼きに手を付ける。

「うまい……」

 俺好みのしょっぱめの味付けがされており、少しコショウが効いていて最高に美味しい。鮭も非常に美味しく、白米をかきこまずにはいられない。味噌汁の具は大好きな豆腐で、こちらもかなり美味しくあっという間に完食してしまった。

「ごちそうさま、すごく美味しかった」

「えへへ、ありがと」

 素直に味の感想を言うと雨音はまた照れたように笑った。

「おにいちゃん味噌汁はまだ残ってるけどおかわりいる?」

「いや、もうお腹いっぱいだから遠慮しとく」

 自分の食器といつの間にか食べ終わっていた雨音の食器を台所の流しに持っていき、水を張った。

「あ、ありがとうおにいちゃん」

「どういたしまして」

 ソファーに座り、さっきまで見てたニュースを再び見始めた。別にニュースが好きな訳ではないが、登校する時間まで暇ですることが無いから見てるだけだ。

「わたしも一緒に見ーよおっと」

 雨音はそう言い、俺の隣ではなく膝の上に座ってきた。

 その行動の意図を察した俺は雨音の頭を撫で始める。

 こうやって膝の上に座って来る時は大体撫でてほしい時だ。

「にゃふー♡」

 それを裏付けるかの様に、雨音は気持ちよさそうな声を出して喜んだ。

「おにいちゃん撫でるの上手~」

「そうか?」

「上手だよ~、将来は頭撫で屋さんになれるね」

「なんだよ頭撫で屋さんって絶対客来ないだろ」

「いいや、わたしが毎日通い詰めるから大丈夫だよ」

「それなら雨音専用の頭撫で屋さんになるかな」

「わーいやったー」

 雨音は両手を上げて喜んでいる。そんなに頭撫でなれるは気持ちいいものなのだろうか。

「なぁ、雨音」

「なぁに?おにいちゃん」

「頭撫でられるのってそんなに気持ちいいのか?」

「うん!気持ちいいよ!ものすごく」

 雨音が力強く頷いているため、本当に気持ちいいのだろう。どんな感じなのか気になるが、素直に「雨音、撫でてくれ」なんて口が裂けても言えないため、一生撫でて貰う側の気持ちは味わえそうにない。

「あっ、おにいちゃんもうそろそろ学校行く時間だよ」

 と雨音がニュース番組の左上に表示されている時刻を指差してそう言った。七時五十分。確かにもうそろそろ家を出る時間だ。

「おにいちゃんの膝の上、まだ座ってたかったなぁ……」

 雨音は名残惜しそうに膝の上から降りた。

「帰ってきたらまた座ればいいだろ」

「はっ!?確かに、おにいちゃん天才」

「まずは遅刻しない様に早く行こうな」

「はーい」

 俺たちはリビングのドアの近くに置いておいたカバンを持ち、玄関へ向うのだった。

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