第31話

それから美妃奈の病室に行くと、美妃奈は透き通るほど白い顔と、大きい目を閉じてすやすやと眠っていたが、僕が来たとわかると直ぐに犬のしっぽが見えるくらい満面の笑みを浮かべてきて

「はるくん!来てくれたんだ!」

なんて言ってくれるものだから、たまらなく可愛いなぁなんて思ってしまうんだ。

恥ずかしくなって逸らした目線と、まだ昨日花瓶に挿されたばかりのアイビーを見つける。

あの日〜アイビーを買った日〜から毎日お見舞いに行く度にアイビーを買っていったら、花屋のお姉さんから『彼女、喜んでくれたのね』

と微笑ましげに笑ってくれた。

彼女もまた、初めと同じようにとても嬉しそうに笑ってくれる。

その笑顔がたまらなく切ない。

もう少しでこの笑顔が見られなくなるなんて。

現実から目を背けたくなるのも仕方ないことに思えた。


12月17日(金)

しばらくして美妃奈が退院できそうだと病院から連絡が来た。

慌てて学校終わりに病院に向かうと、厳しい顔つきのかな先生が待っていた。

どこかでそうだろうな、と思ってはいたものの自分の楽観的な部分では回復の報告を待っていた。

「ごめんなさいね、急に連絡して。」

「いえ、それで……病状が回復してないんですよね?なのに退院とはどういう?」

とたんにかな先生はいまにも壊れそうな笑みを浮かべる。

彼女なりに真剣に考えて答えを出したのだとわかる顔だった。


「みいな、、、美妃奈ちゃんが、、」

「僕は気にしませんよ。言ってくれて構いません」

何が、言ってくれて構いません。だよ!!

思わず自分を殴りたくなる。

全然。。聞きたくない。

聞きたくない。聞きたくない!!!

拒絶する僕を見ながら先生は。

かな先生は主治医として、長年美妃奈と過ごしてきた人として。

下した決断を告げた。

「美妃奈ちゃんが。『私の、私の余命がもう少ないのは自分が痛いほど分かってる。だから、せめて。せめて最後だけははるくんと。普通の女子高生として遊んだりして過ごしたい。。』歯を食いしばりながらポロポロと涙を流す美妃奈ちゃんをみて。ごめんなさいね。主治医として有るまじき決断だったわ……」


僕はしばらく黙り込んだ後、自分の中の答えを伝える。

「か、かな先生の決断は主治医として間違っていたかもしれません。けど、けど!美妃奈と長年すごした人として。僕らに正しい決断をありがとうございます。」

そう言って頭を深く下げてからしばらくして、声を押し殺したかな先生の嗚咽が聞こえてきた。

けれど僕は気づいていない。

かな先生の嗚咽が聞こえなくなるほど-。

全ての悲しみを殺して泣いた。

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