第30話
それからしばらくすると、かな先生も入ってきたので遊びの話をしておく。
「ーという話なんですけど、大丈夫そうですか?まぁ、無理なのは分かってるんですけど……」
「そう、ね。出来れば許可してあげたいのだけれど」
「はぁ……ですよね」
「残念だけど、美妃奈ちゃんがその久留野さん?の家で倒れてしまったら美妃奈ちゃんが嫌なのよね?」
「はい、できればバレずに最後まで」
「そう、よね。それならごめんなさい。倒れない保証はできない。というかそもそも、美妃奈さん報告、したの?」
「っ……」
途端に唇を噛んで黙り込む彼女。
ザワっと、背筋に悪寒が走る。
良くない予感が、的中、した。
「転移、したって」
「転移?」
「春翔くん、受け入れられないかもしれないけど、聞いてね。美妃奈ちゃんの中にある癌の悪いやつが体の別の部分にも、移動してしまったの。もしかしたら、お泊まり会どころか退院できるかすら危ういわ。今日もまだ熱は続いているし。」
ずっと顔が赤く見えてたのは照れてただけじゃなかったんだ……
「ご、ごめんなさい、言おうと思ってた、けど」
「いいよ、別に。何も考えないで提案してほんとごめん。」
「そ、そんなこと……」
それからお見舞いにいったが退院出来たのは、12月中盤、余命まであと1週間の頃だった。
美妃奈が検査入院が終わると言った日に、かな先生に呼び出された。
そのくっきりと色濃く残るくまと、悲痛に歪んだ顔を見て『察して』しまった……
あぁ、もう。
察してしまっても、いくら分かりたくなくても!
受け止めたくなくても!!
かな先生はひたすら冷酷な事実を投げつける。
美妃奈の退院が出来そうにないので、学校では入院中だと言わざるを得ないこと。
最後の瞬間まで帰れるか怪しいこと
そして……
美妃奈の命が残り少ないこと
この事実を伝えられた時、思わず息を飲んで泣き崩れてしまった。
何も出来ない自分の無力さに嫌気がさす。
そしてかな先生は自嘲するように笑いながら、僕にこういった。
「私達も尽くす手がないんだよ……」
と。
それはかな先生の悲痛に満ちた心の叫びだった。
僕は薄々気づいていたのかもしれない。
いや、確実に気づいていた。
あの時転移したことを告げた、美妃奈とかな先生の口振りから深刻な事態だと言うことに。
けど、けど!
気づかない振りをしてたんだ。
美妃奈の全部を受け止めるって、あの時決めたはずなのに。
まだまだ、子供だな。
やはり僕も、かな先生のように自分を卑下して歪な笑みを浮かべることしか出来なかった。
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