第41話 馬が……

「腹がすいた。草を食わせて欲しい」


 馬が喋った。


 もう一度言おう。馬が喋った。


「君は私達を飢え死にさせるつもりかね? だとしたら労働基準法に照らし合わせて学術都市から調査官を派遣して貰おうか」


「いえ、あの、はい。草を食べて下さい」


 アーサーも驚いていない。何だ? この世界では動物は人語を解せるのか? 本当にリアルなナルニア国物語だよ。


「不味いな。こんなもので私達を走らせようと?」


「いやいや、そういうつもりはないです。どうしろと」


「天使に上質な草を出して貰え」


 あー、こうくるのね。今ウリエルは痴女形態なのに。だからアーサーと引き合わせたくなかったのに。運命はこれですか。


 いや、あれだね。運命とはいつも過酷なものなんだね。


「アーサー、悪いけど、眼を瞑っててくれないかな?」


「あ、はい。分かりました」


 匙に乗せた蜂蜜を火で炙る。香る匂いでおびき出す。


「ウーリーエールーさーん。蜂蜜だぞー。ソドムで買った最高品質の蜂蜜だぞー」


 後ろからモゾモゾ動く音がしてウリエルが顔だけ出した。


「ほえ」


「悪いんだけど、上質な草を出してくんない? 馬達が草不味いって」


「草?」


「そう、草」


「たしかにえいようなさそうな草だねー」


「馬達は労働基準法を持ち出して僕らを訴えるつもりかも知れない。扶養を怠っているって訴えるかもね」


「しょーがないなあ」


 さすが、ウリえ……ウリエルだ。便利な道具を奇跡で次から次へと出してくれる。


 ピカーッッほわわわぁん、タッタラタッタッターターターン。


「草」


「いや、出し過ぎだよ! 山みたいになっているよ! 道が塞がれてしまった……」


 馬は上機嫌に食べているけど、これ食べきれないと思う。

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