第3話 幼女天使の来訪に途方にくれて
「蜂蜜が欲しいな」
何で蜂蜜? 僕の戸惑いが表情に表れていたからかウリエルは説明を始める。
「あのね。天使は基本的殺しちゃいけないの。だからだからね、蜂蜜とか甘露水とかしか飲めないの。でもねでもね、果物とかは種を取れば大丈夫なの」
言っていることは理屈として判る。ジョン・ミルトンの失楽園でも罪を犯す前のアダムとエバは果物を主食にしていた記述があるし、聖書の創世記も木の実で生活していた状況を匂わせる記述は確かにある。
しかし、本当にそれだけの理由だろうか? 目の前の幼女は甘いもの欲しさに言ってはいないだろうか?
幼女のねだる様は甘える様だ。上目遣いにこちらを見詰めてくる。
やりづらいなあ。子供とは本当にやりづらい。どうしたら良いか解らないものだ。
取り敢えず近くの売店で天然の蜂蜜が売っていたので買ってきた。
幼女は瞳をきらきら輝かせて蜂蜜の容器を受取る。垂涎が我慢出来ずに漏れ出ているのは指摘した方が良いのだろうか?
懐からマイスプーンを取り出す幼女。よく見ると銀で誂えた立派なスプーンだ。そして、容器を空け、蜂蜜を堪能する幼女であった。
「えーっとお嬢さん?」
「ふりぃえるでいいよ」
「うん?」
上品にスプーンを扱い、ゆっくり味わい飲み込んだ後に幼女は言い直した。
「ウリエルでいいよ」
「じゃあ、ウリエルさん、幾つか確認だ。まず風邪は大丈夫なのかい?」
「うん、大丈夫になってきたみたい」
本当かよ。本当は子供に蜂蜜ってあんまり良くないんじゃなかったっけ? 特に乳幼児には飲んではいけないものの筈だ。それ以前に風邪が蜂蜜で治るのか?
本当は甘いもの欲しかっただけではないか? しかし、その辺りは追求するのはどうかと思われる。
いや、それより確認したい事項がある。
「ウリエルさんは本当に四大天使のウリエルさん? 同姓同名の別人?」
「ウリエルはウリエルだよぉ」
答えになっていない答え。仕方がない。言い方を少し変えてみるか。
「ウリエルさんは四大天使なの?」
「うん」
愕然とした。マイゴット、マジですか。人類史に伝わっているウリエル像とは似ても似つかぬ姿に些かショックだ。
今日に至る天使学、宗教学、歴史学を根底から覆す様なことを平然と語る幼女。
「ウリエルさんってもっと筋肉質じゃないの? そんな姿のウリエル像なんて聞いたことがないよ」
もしくは某有名漫画のビ○ケさんみたいに普段は少女なのに本体は筋肉質なのだろうか。
「ウリエルはウリエルだよぉ」
ちょっとムスッとした表情で言い返す幼女。蜂蜜を美味しそうに食べている姿も目撃されては説得力も糞もない。
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