即興小説置き場
朽羊歯ゾーン
ブラウン管から
ブラウン管テレビの画面がぬるりと盛り上がり、頭頂部が覗いた。「犯人」という言葉が頭で点滅するのは、テレビから出てきた彼女と私がただならぬ関係だからである。
「どうですか、Yさん」
隣にいる霊感探偵が訊ねてくる。答えようとしても、喉が締まって声が出ない。テレビからは当たり前のようにつるりと顔が出て、こちらを向いた。意外なことに、目に涙が溜まっている。もっと殺意に満ちた、激しい感情を向けられると思っていたのに。
「あんた……」
ずるり、ずるり。すっかり手まで画面から出てきた女が、こちらに向かってくる。思わず「ヒッ」と声が出た。目をそらし、後ずさりしようとする私を、霊感探偵がにらみつける。
「あなたの問題です。ちゃんと見て!」
おそるおそる視線を戻すと、テレビから出てきた霊は、縮こまって土下座していた。
「ごめんよ、ごめんよお、殺してしまって。カッとなって刺しちまっただけなんだよ。とっさに、自分が代わってあげたいと思って自殺したけど、意味がなかったみたいだねえ」
「やはり、心中ではなかったのですね」
霊感探偵が彼女に話しかける。私を殺したのは、この女だ。一方的に刺された。そのはずが、世間では心中ということになってしまっている。どういうことなのか。私は霊が見えると噂の探偵を雇い、真相を暴いてもらったのだ。
そうか、殺す気はなかったのだな。
私はほっとして、彼女とともに成仏した。
この瞬間だけ見たら、心中に見えたかもしれない。
(お題:3月の犯人 必須要素:ブラウン管)
(3月要素入れ忘れてましたね)
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