詩「さざ波」

有原野分

さざ波

小さないびきのその奥にある

夢の世界をふとのぞき見て

ぼくは思い出す

古い記憶を鮮明に

風の吹く海の

溺れるような塩っ辛さと

三ツ矢サイダーの蓋を開けるときの

シュッという音と

手を繋いでバスに乗り込んだ

母親の手のぬくもりと

布団の中で鳴っている

自分の心臓の鼓動を

ぼくは思い出す

高熱にうなされている

あなたが見ている夢の世界には

大きな雲が

流れているのかもしれないし

透き通るガラスのような

澄み渡った青空が

広がっているのかもしれない

そんな思い出に目を向けると

ぼくはぼくとして生きてきたことを

ようやく理解できる気がして

潰れかけた小さな病院の

待合室の白い壁のような

雨の降りそうな空に

見えない重りを背負わされた

その小さな身体の

先祖から続く悲鳴が聞こえてくる気が

 する

だからぼくたちはいつもより

早く明かりを消すのだ

早く朝を迎えるために

早く夜空の冷たさか逃れるために

ぼくの鼓動と

きみの鼓動が

隣から聞こえる

さざ波のような

小さないびきのその奥にある

夢の世界をふとのぞき見て

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詩「さざ波」 有原野分 @yujiarihara

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