第26話 事件の真相
まずエレオノーラの指示により、用意された大きな白い布を現在目の前に何も置かれていない壁に皺になったり、弛んだりしないようにピンと張った状態で貼り付ける。
そして適当な高さの机を一つ用意し、その小さい箱の形をした黒い物体を置く。
「皆様、この小さい箱状のものはヴァレント王国で発明された機械です。使用用途はスイッチの部分を押すと、目の前で起きている出来事をレンズを通して機械に内蔵されている記憶装置に映像記録として録画出来ます。その録画した映像は再生することが出来ますの」
ヴァレント王国は国土面積は小さく、人口も少ないものの、機械産業が周辺諸国よりもはるかに発展している。
なので国土面積が小さくても大国による侵略はされない。
何故なら当然軍事用にも優れた機械産業技術が使われているので、侵略しようものなら高度な技術による圧倒的な力で敵は簡単に排除されるからだ。
だからと言って他国を自ら侵略している訳ではなく、敵が来た時のみ排除するという平和思想をもった国家である。
録画機械が発明されたのは五年程前だが、その存在を知っている者は意外にも少ない。
ヴァレント王国では一般人にも認知されているが、外国では殆ど認知されていない。
サミュエルはたまたまヴァレント王国からオルレーヌ王国に出稼ぎに来た商人に商品の売り込みを熱心にされたことがあるので知っていた。
ブロワ公爵家でクリスティーンが毒殺されて以降、サミュエルはその存在を思い出し、過去に熱心に売り込みをしてきた商人と接触を図り、その商人から屋敷警備を強化する目的でこの録画する機械を何個か購入して設置することにしたのだ。
万が一何かが起きた時の証拠としても使える。
「今、ここにある分は全て公爵邸に設置されていたものですわ。さぁ、早速再生してみましょう。皆様、ご注目下さい」
エレオノーラが機械を操作して再生する。
白い布にはとある部屋の様子が映し出された。
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「ねえ、ママ。私、実はお義姉様の婚約者のシモン様と付き合っていて彼と結婚したいの。その為には邪魔なお義姉様をどうにか排除しなくちゃならないくて。悩んでいたらある人から毒を使って自作自演でお義姉様を陥れたらどうかと知恵を貰ったの。ママ、あの毒、まだ持っているよね? 私に貸してくれる?」
「まだ余っているし、いいわよ。マリアンの願いは叶えるのが母である私の務め。ちょっと取ってくるから待っていなさい」
ルイズはいそいそと化粧台の引き出しから毒の入った小瓶ともう一つ同じ大きさの茶色の小瓶を取り出す。
「はい、これ。透明な小瓶の方が毒で、茶色の小瓶はその毒に対する解毒薬よ」
「これ、どうやって使えばいいの?」
「この毒――白の悪魔は花の香りがするから、香りを誤魔化す為にハーブティーに混ぜるといいわ。茶葉に染み込ませるか、ハーブティーに数滴垂らすか。問題はエレオノールがハーブティーが好きで飲むかどうか私は知らないということね。それはメイドに情報収集させるしかない。……知らないけど、多分好きではないとは思うわ。だってあの子の母親はハーブティーを飲んで死んだから。解毒剤は予め飲むことで効力を発揮するわ」
「ママ、ありがとう!」
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ここでエレオノーラは動画を一旦停止させる。
「この映像はブロワ公爵邸でのお義母様とマリアンのやり取りですわ。ご覧の通り、マリアンははっきりと”自作自演で陥れる”と言っておりますし、お義母様から毒を譲り受けておりますわね」
「う、嘘だろう……マリアン。まさかこんなことをするなんて……」
シモンは呆然とする。
自分の愛しいマリアンがまさか計略を立ててエレオノーラを陥れるだなんて。
確かにシモンはマリアンがエレオノーラに害されて憤っていた。
憤っていたが、こんな風にエレオノーラを陥れて自分は被害者面をするとなると話は違う。
シモンは全面的にマリアンは被害者であると信じていた。
だからこそ自分は正義でエレオノーラは悪であると断じたのだ。
しかし、こうなるとブロワ公爵邸でエレオノーラから虐められていたという話も真実かどうか怪しくなってくる。
シモンはエレオノーラから話を聞くことも屋敷でマリアンを虐めるのはやめるよう直接エレオノーラに注意することもなかった。
マリアンの話のみを聞いて憤っていたから、客観的な証拠は何もない。
ルイズが逮捕された時にサミュエルから聞いた言葉よりシモンの頭によぎったマリアンによる自作自演の疑いが現実のものになってしまった。
シモンは急に自分の足元がさらさらと音もなく崩れ去っていく感覚に襲われた。
「シモン様、この映像は何かの間違いです! お願い、私を信じて!」
マリアンは必死に叫ぶが、その叫びは呆然としているシモンの耳には届かなかった。
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