第25話 悪役令嬢による告白

 第二皇子夫妻は国王陛下夫妻達のいる王族席の方へ向かい、まずは国王陛下と王妃殿下に挨拶する。


 他国の皇族が挨拶をするので、第二皇子夫妻が入場するという案内があった時点で国王陛下一家は席から立ち上がっている。


「オルレーヌ王国国王陛下、王妃殿下。私はルズベリー帝国第二皇子ジョシアと申します。本日は私達の為にこのような歓迎のパーティーを主催して頂きありがとう存じます。此方がこの度結婚して夫婦になりました私の妻のエレオノールです」


「只今、夫から紹介に預かりましたエレオノーラでございます。夫共々よろしくお願いしますわね」


 エレオノーラは気品溢れる優雅なカーテシーをする。



 国王陛下が挨拶を返す前にシモンが口を開く。


 シモンはガタガタ震え、まるで亡霊でも見たかの如く顔色は真っ青になって血の気が失せている。


「おっ、おっ、お前、エレオノールか……?」


「エレオノールは死亡しました。あなたの命令でね。事実ブロワ公爵家の貴族籍に記載のあるエレオノールは死亡したと記されておりますわ」


 エレオノーラは何の表情もなく素っ気なく言い捨てる。


「い、生きていたのか!? まさか幽霊……ではないよな……?」


 シモンの胸によぎったのはエレオノーラが生きていてよかったという安堵よりも恐怖だった。


 死刑になったはずの女が目の前にいる。


 それは途轍もない恐怖をシモンにもたらした。

 


「嫌ですわ。私は生身の人間ですわ。それよりシモン王太子殿下、私、あなたに言いたいことがありまして」


「な、何だ……?」


「まぁ! そんなにガタガタ震えて。ねぇ、シモン王太子殿下。今、どんなお気持ち? 処刑したと思った女が舞い戻って来て」


 エレオノーラはゆっくりとこの状況を楽しむかのようにシモンに問いかける。


「何をする為にオルレーヌ王国に来たんだ!?」


「ふふっ。何をする為にですって? それは勿論、あなたに復讐しようと思いまして。あなたは私がいくら違うと言っても私の言葉は何一つ信じずに死刑判決を下した。もし、私が本当に処刑されていたなら何も出来ることはありませんが、私はお父様に助けて頂いて生きている。ならば自分を陥れた者に復讐するのは至極当然のことではなくって? ここでマリアンの毒殺未遂事件と処刑の真相を皆様の前で暴露しますわ」


 エレオノーラはその美しい顔に綺麗な笑みをのせて宣言する。



 彼女の言葉を聞いて、参加者達の間にざわめきが広がる。


 耳をすませば”やっぱりエレオノール嬢は陥れられたのですわね”、”エレオノール嬢が犯人でないとするとあの二人が何か仕組んだのかしら?”、”エレオノール嬢が犯人でないとするならば彼女は冤罪で処刑されたということになるが……”等という言葉が聞こえてくる。



 エレオノーラの真の目的はシモンに復讐することではないが、内情を知らない第三者から見るとエレオノーラの状況は自分を陥れた者達に復讐するというのが最も筋が通る。



「マリアンの毒殺未遂事件の真相……? お前が犯人。そうではないと言うのか!? お前だって拷問の時に罪を認めたではないか!?」


「お義姉様、見苦しいですよ! お義姉様が私に毒を盛ったからあんなことになったのに!」


 シモンは自分の判断が間違っていたことを認めたくなくて拷問での出来事を引き合いに出し、マリアンはここで自分の自作自演による仕業だと暴露されるのは避けたいのか必死になって言い募る。


「ええ。そうですわ。私があの時認めたのはあなたが最初から私を犯人だと決めつけて、そういう証言を取ろうと躍起になって拷問してきて心が折れたからですわ。普通の令嬢ならあれと同じことをされたら、自分がやっていなくても自分がやったと言ってしまうと思いますが。そして、マリアンはよくもそんなことが言えますわね。そうではないことをあなたが一番わかっているでしょう? あなたこそがこの事件の真犯人だというのに」


「マリアンが!?」


「お義姉様、私に罪を擦り付けようとしないで下さい! シモン様、お義姉様の言うことに耳を貸さないで!」


「やけに必死ですわね。その態度こそがあなたが犯人だと言っているようなものですわ。でも私があなたの言いなりになって真実を言わない理由にはなりません。アネット、例のものをこちらへ」



 エレオノーラがマリアンの言いなりになる理由なんて何一つない。


 エレオノーラはかつてブロワ公爵家にエレオノーラがいた頃、エレオノーラ付きのメイドだったアネットを呼び寄せ、とあるものを持ってこさせる。


「エレオノールお嬢様。お持ち致しました」


「ありがとう、アネット」



 アネットが持ってきたものは小さい箱の形をした黒い物体だった。


 一つではなくて三つほど持ってきている。


 その箱は三センチ四方程度の大きさで、一見したところ何に使うのか見た目だけではわからない。


 アネットがその物体を持ってくるのと同時にパーティー会場内には大きな白い布も用意されていた。


 

「さあ、皆様。これから真実をお話しますわ。毒殺未遂事件の真相を」




 ――これから真実が白日の下に晒される。


 その時何が起きるのか。



 それは神のみぞ知る。

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