第20話 王国脱出、そして帝国へ
ついにエレオノーラが処刑される日がやってきた。
処刑はサミュエルの立ち合いの元で行われることになった為、それまで地下牢の独房で待機する。
処刑の時間が来て、サミュエルが地下牢を訪れた。
処刑執行見届け人として地下牢の看守も同席しているが、サミュエルが彼を金で買収済みである為、何が起きても確かに処刑は執行されたと王家側に証言される。
なお、エレオノーラを悪だと断じたシモンがこの場にいないのは、処刑を直に見るにはまだ年齢的によろしくないという配慮からである。
「エレオノール、時間だ。ここから脱出して、ジョシアと落ち合え。脱出した先にジョシアが待っているから、彼と一緒に私が手配した馬車に乗って港町のモンブリーまで行き、そこからルズベリー帝国行きの船に乗れ。ルズベリー帝国に着いた後のことはジョシアが皇帝と打ち合わせ済みだから心配しなくても良い」
「わかりましたわ、お父様。では、私は脱出しますわね。お父様とは一旦お別れですが、また帝国で必ず会いましょう」
「気を付けて。私は後のことは私に任せておけ」
エレオノーラがいる独房には実は隠し扉があり、隠し扉を開けて通路を歩いて行けば、城下町にある古い小さめの屋敷の中にたどり着く。
クーデターで王族が地下牢に入れられた時の為に、脱出用の通路が作られているのだ。
その屋敷は昔、王族の一人が愛人と逢瀬する為に作られた屋敷で、その王族と愛人亡き後は相続する者がいなかった為、誰も住んでいない。
なので地下牢からの脱出用の通路が極秘で作られた時に、通路の出口に選ばれた。
サミュエルは宰相として職務上、隠し通路の内、全部ではないがいくつかは把握しており、その内の一つがこの通路である。
エレオノーラはレンガ造りの壁の内、サミュエルに教えてもらった場所にあるレンガをいくつか動かす。
すると、人ひとり通れそうな通路が現れる。
その通路は一本道で、エレオノーラはひたすら進む。
長い間誰も使っていない通路だったので、通路の中は蜘蛛の巣やほこりを被っており、あまり快適な道とは言えなかった。
やっと目の前に扉が現れ、扉を開けると、話に聞いていた通り、貴族の屋敷の一室にたどり着いた。
「エレオノール、地下牢からの脱出お疲れ様。ずっと一人で心細かっただろう。とりあえずこの服に着替えて、馬車に乗ろう」
「ジョシア! 独房で誰にも会えず一人きりは不安でしたわ。今日、お父様にやっとお会いしました」
エレオノーラが着いた一室にはジョシアがおり、服を彼女に手渡す。
平民が着るよりも少し質が良いワンピースだ。
別室で着替えたエレオノーラはジョシアと共に屋敷を出て、馬車に乗る。
馬車に揺られることおよそ三時間。
二人は港町モンブリーに到着する。
ルズベリー帝国行きの船のチケットをジョシアがサミュエルから預かっていた旅資金から二人分購入して、船に乗り込む。
船は夜出発して翌朝帝国に着くようになっている為、今夜は船の中で一泊だ。
この旅の為にジョシアが必要なものを詰めて背中に背負っているリュックサックの中に、保存食を入れていたので今日のところはそれを夕食代わりに食べて、泥のように眠る。
翌朝、船は問題なく予定通りルズベリー帝国の港に到着する。
二人は下船して、港町のカフェで朝食を取ることにした。
トーストとサラダとコーヒーという簡素なメニューだが、長旅で疲れていた二人には美味しく感じられた。
「何とか帝国まで無事について良かったね」
「ええ。疲れたけれど、何とかここまで来れましたわね」
「これから父上が手配した馬車に乗って帝都ロージアンまで移動する予定だよ。この港町からロージアンまでは馬車で一時間程度かな? 父上からの手紙にはそう書いてあったはず」
「そうなのですわね。長時間移動ではなくて助かりましたわ」
「さあ、行こう」
ジョシアの案内で、馬車が用意されている場所まで歩き、馬車に乗り込む。
そしておよそ一時間後に帝都ロージアンにあるグロスター城までたどり着く。
グロスター城とはルズベリー帝国の皇帝とその家族が住んでいる城である。
石造りの重厚なデザインの城で、いくつもの塔から成り立っている。
「久々にここに帰ってきたな。オルレーヌ王国に避難した時はここにお嫁さんを連れて帰ることになるなんて思ってもみなかったけれど」
「ここがジョシアが生まれ育った城なのですわね。私はルズベリー帝国に来たのも初めてなので色々教えて下さい」
「案内は勿論任せて」
城門で門番にジョシアが声をかけ、事情を説明するとすぐに案内役の使用人が門にやって来て、ジョシアとエレオノーラを城内の応接室に案内する。
少し待っていると、扉がノックされ、男女が二人入室する。
「ジョシア、久々だな。よく戻って来た。そちらはエレオノール嬢か? 私はジョシアの父でリチャードと言う。貴女のことはサミュエルとジョシアから手紙で話は聞いている」
「ジョシア、お帰りなさい! 此方がジョシアのお嫁さんのエレオノール様ね。初めまして! ジョシアの母のダイアナですわ」
「初めまして。エレオノール・ブロワと申します。父がお世話になっております」
「そんな畏まらなくてもいいのよ。私のことはお義母様、リチャードのことはお義父様と呼んでちょうだいね」
こうしてエレオノーラはルズベリー帝国の皇帝夫妻でもあり、ジョシアの両親でもあるリチャードとダイアナに邂逅する。
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