第19話 予定調和の退場
例によっていつものカフェの個室に呼び出されたエレオノーラはダミアンから彼の掴んだ情報を聞く。
「まぁ! 本当にそんなことを言っていたの?」
「はい。因みにお伺いしますが、本当に屋敷では虐めているのですか?」
「いいえ。そんなことは勿論やっておりませんわ。……と言うより今、ダミアン様が仰られたことの内ほとんど全部お義母様かマリアンが私に対してやっていることですわ。自分が私にしていることを立場を入れ替えて被害者面してシモン王太子殿下に泣きつこうだなんて、どれだけ面の皮が厚いのかしら」
「真相はやっぱりそんなところだったのですね。シモン王太子殿下は凄く憤っていましたよ」
「それはさておき、その情報は使えるわね」
「そうですね。私がマリアン嬢にエレオノール嬢を陥れることが出来ればあなたがエレオノール嬢の代わりにシモン王太子殿下の婚約者になれると唆して行動に移させれば良いかもしれません」
「やらせるなら殺人未遂なんて良さそうですわ。マリアンに自作自演させて、私が犯人という状況を作り上げる。自作自演で殺人未遂を起こすなら、毒が一番対策を取りやすいですわね。毒を飲む勇気は必要ですが、解毒薬があれば安心です」
「殺人未遂? もう少し穏便なものにしませんか?」
殺人未遂という不穏な単語にダミアンが眉を上げて顔を顰める。
「いいえ。やるなら殺人未遂ですわ。中途半端な事件を起こして、中途半端な罪状が付くのは不可です。逆に死刑の方が都合が良いですわ。マリアンを殺害しようとした罪で死刑判決を受け、お父様の力を借りて脱走し、婚約者と共にそのままルズベリー帝国に行く。そしてその彼と結婚して、そのまま帝国で暮らしますわ。私がマリアンを屋敷で虐めていたことを証拠も無しに真に受けて憤っていたならば、放っておいても死刑判決になりそうですし」
「本当の婚約者とは? その話から察するに帝国の貴族ですか?」
「帝国の第二皇子ですわ。正式に婚約は結んでいます。向こうには時が来たらシモン王太子殿下とは婚約解消し、もしその約束を破った場合はペナルティーが課せられますわ」
エレオノーラは紅茶を一口飲む。
「実は私の実の母であるクリスティーンお母様はマリアンの母のお義母様に毒殺されているのです。毒も恐らくまだ隠し持っているでしょうね。毒は簡単に処分は出来ません。なので、ダミアン様がマリアンに私を陥れる話を持ち掛け、お義母様に相談に乗ってもらうように唆す。後はダミアン様が動向を探って、軌道修正が必要な時は軌道修正をお願いします。ここからが正念場なので、頑張りましょう」
「了解しました」
打ち合わせ通り、ダミアンはマリアンに話を持ち掛ける。
殺人未遂を起こす手順を教え、”上手くやれれば、あなたを虐めていた邪魔なエレオノール嬢は消せて、あなたがシモン王太子殿下の婚約者になれる”と甘言を吐く。
その甘美な響きにマリアンは抗えず陥落し、早速ルイズに相談する。
マリアンはルイズから毒と解毒薬を譲り受け、マリアン専属のメイド――キャロルに茶葉に毒を染み込ませる作業をさせたり、毒の瓶をエレオノーラの机の引き出しに入れておいたり、当日の動きをキャロルと打ち合わせする等、事前準備を行う。
このキャロルはエレオノーラとも打ち合わせ済みなので、マリアンが言うことに頷き、言われた通りにやるよう指示されていた。
そして、当日を迎えた。
当日は手筈通りに何もかも上手くいき、エレオノーラは地下牢に連行された。
拷問を受けるところまでは想定の範囲内だったが、頭ではわかっていても鞭で打たれるのは痛かった。
最後にエレオノーラは学園の卒業パーティーで死刑を言い渡されることになった。
「お前の処遇は学園の卒業式パーティーで言い渡してやろう。お前の罪を皆に知らしめる絶好の機会だ」
こうしてエレオノーラは手首を鎖で繋がれ罪人のような姿で近衛に連れられ、学園の卒業式でシモンに死刑を突き付けられる。
死刑判決が告げられた時、ざわめきが起き、その囁きはエレオノーラの耳にも入って来ていた。
普段から人付き合いを頑張っていた甲斐があって、エレオノーラがマリアンを害したと信じる者はいなかった。
判決を受けたエレオノーラは、判決に対し返事をすると、最後の挨拶をしようと扉付近で振り返る。
「皆様、今までお世話になりました。皆様と楽しく学園生活を送れたことは私の人生の宝物ですわ。皆様、またお会いする日まで。ご機嫌よう」
そして再び会えることを暗示する挨拶を残して退場する。
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