第8話
結月は凛が退院後、スマホでは連絡を取り合ってはいたが実際に会っていなかった。
急に、夜に凛から電話があった。
『結月、話があるの』
『何?』
『私、付き合っている男性がいるの』
結月は血の気がサッと引くのがわかった。
『そう。お好きにどうぞ』
結月は電話を切った。
付き合うも地獄、振られるも地獄。
(私が今までやってきた事は一体なんだったのだろう)
凛はノーマルだ。そんな事ははじめからわかっていた。
だが、結月はこの状況でまさか振られる事になるとは思いもしなかった。
電話の後、凛は涙を流していた。もうこれ以上結月に迷惑をかけたくなかったから、嘘をついてでも別れる選択をした。本当の事を言うと、引き止めて欲しかった。
***
季節は冬へ。
結月は冬期講習で忙しくなった。
クリニックのバイトは3月まで休止する事になった。代わりに、看護師の派遣会社が穴埋めをする事になった。
それでも、癒されたかったから...。土日の朝は晶子の家へ行った。
晶子の家で勉強しているが、区切りの良いところで休憩して晶子と話をする。
「成績はどう?」
「模試の結果を見ても、志望校は合格圏内に入っているよ。」
「そう、それは何より。結月が志望校に行ったら、離れ離れになるね」
「平日は学校があるから、夕方から夜しかバイトできないしね。生活リズム変わっちゃうし。」
「入試の結果が分かってからで良いけれども....、もし合格したら一緒に住まない?」
「えっ?」
結月は驚いた。正看護師になるための学校に入学するれば、私生活はまっさらになると思っていたからだ。
しかし...。晶子は保険として残しておきたかった。
「そうだね。入試の結果が分かったら答えを出すよ」
晶子は結月に触れるだけのキスをした。勉強の邪魔になるといけないから、それ以上はしなかった。
***
志望校と滑り止めの試験が終わった。筆記試験と面接だった。手応えがあった。あとは、郵送で結果が送られてくる。
志望校の結果は合格だった。
これで結月は正看護師になるための2年間の学習を経て、国家試験に合格すれば正看護師になることが出来る。
今までのキャリアで奨学金が出る。学費は奨学金、生活費は週末のバイトだけで足りる。
これから、結月の新しい生活が始まる。
土曜日の昼間、結月は晶子と外でランチに行った。
「晶子、同棲の事だけど...」
「新生活に古い物は持って行きたくないんじゃないの?結月は」
「そういうわけじゃなくて。学校の寮に入ろうと思って。だから、晶子とは一緒に住めない。土日のバイトで生活費を稼ぎたいから、今までみたいに晶子の家にも...」
結月は泣いていた。
大粒の涙が頬を伝って流れ落ちた。
理屈では最善の方法を選ぼうとしても、気持ちがついていかない。晶子まで切り捨ててしまったら、結月の心は壊れてしまう。
「私は転職するから、昼夜逆転の生活じゃなくなるよ。時々遊びに行くからね。結月も時々遊びに来て」
晶子は結月に比べたら大人だ。年齢だけではなく、精神的にも大人の女性だ。
結月の涙を晶子がハンカチで拭う。
こうして、結月の新生活が始まる。
(終)
女性には優しく、男性には冷たく milly@酒 @millymilly
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