第6話

 日曜日の昼頃、結月は晶子マンションの玄関のチャイムを押した。中から晶子が出てくる。


 「ふあーっ、おはよう」


 「もうこんにちはだと思うよ」


 結月はクスクスと笑っている。


 「入りなよ。お見舞いに行ってどうだった?」


 結月は晶子の部屋へ入った。


 前回と同じように、ベッドにもたれ掛かる。低いテーブルを前にして。


 「はい、麦茶」


 「ありがとう」


 結月はテーブルに出された麦茶をゴクゴクと一気に半分くらい飲んだ。


 「私が凛のところへ行って、凛の情緒は安定しているのは確かだけど...」


 「ストレス溜まる?」


 「心と体、両方癒やして欲しい。晶子に」


 晶子が結月の隣に座った。


 「それって誘っているのかしら?」


 結月は首を傾げた。


 「とりあえず、先に昼ご飯作るね。パスタでいい?」


 結月は凛を大切に思っている。ただ、ずっとお見舞いに行き続けると心が疲弊してくる。

 凛は先進医療である陽子線治療と抗がん剤の治療中で、口腔舌ガンのステージ四だ。2カ月入院予定で個室。ある程度自由にしていても良いらしいし、売店にも行けるが...。

 凛は味がわからなくなってきている。

 熱いものや冷たいものは食べれず、食べるとしたら病院食の素麺、蕎麦に粥といったところだ。

 申し訳ないが、苦しんでいる凛が結月には重い。


 もちろん凛の両親も力になってくれている。

 母親はパートのない日に、父親は週末にお見舞いに行くようになっている。

 とりあえず、結月は金・土・日はお見舞いには行かなくて済む。

 自由といっても結月はクリニックでのバイトをし、週一で予備校に行き、予習復習や宿題もしなければいけない。忙しいし、気分転換になる時間も確保したい。


 「結月、出来たよ」


 テーブルの上にお皿が置かれた。


 モッツァレラとトマトのパスタだ。

 晶子は仕事でおつまみを盛り付けしたり簡単な料理も作るらしく、料理が美味しい。


 パスタを美味しそうに食べる結月を見て、晶子は微笑む。

 

 「美味しい?」


 「うん」


 「結月」


 「ん?」


 「無理しないでね」


 晶子は結月の頭を撫で、手櫛で髪をとかす。


 パスタを食べ終えて麦茶を飲み干した結月は、気持ちよさに目を閉じる。


 「あのね、晶子」


 「どうしたの?」


 「心も体も癒せるセフレっているのかしら」


 晶子は腹を抱えて笑った。


 「それってお付き合いしているって事じゃないの?」


 「私、セフレに対しては冷たいよ」


 晶子は目を細め、声のトーンを下げた。


 「今まで捨ててきた男たちみたいに?」


 「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」


 「結月は二股をかけているんだと思うよ。一般的には許されないのだろうけれども...」


 晶子は空になったお皿を下げ、キッチンで洗いながら鼻歌を歌う。

 その時、結月が後ろから晶子を抱きしめる。

 

 「ちょっと待って...」


 晶子は手を拭き、自分のお腹に回された手を離して、結月と向き合った。


 「おいで」


 結月は晶子の胸に飛び込んだ。

 晶子は結月の背中に手を回し、二人は熱いキスをする。


 

 

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