第3話
結月がクリニックで仕事をしていると、院長に呼び止められた。
「来客だよ。行っておいで」
表へ出ると、中年の夫人が結月を待っていた。
「今は仕事中なので、仕事が終わってからでもよろしいでしょうか」
「あなたが橋本結月さんですね。私は小林凛の母親です。うちの娘が元気がずっとなくて、ご飯を少ししか食べていないんです」
「それが私に何の関係が?」
「先生からは、精神的なものだと言われました」
「そうでしたか。お大事にどうぞ」
結月は感情なく話し、お辞儀をした。
「橋本さんは冷たいんですね。うちの凛は、橋本さんがついていてくれるから闘病生活に耐えていけると言っていたんですが...」
「今は仕事中なので、お引き取りください」
結月はそう言うと、クリニックの中へ入っていった。
***
結月のいつもの一人酒。
そこそこ給料をもらっているからバーに来れる。
いつもの女性バーテンダーと話す。
「親御さんが会いに来たのに、冷たく追い返しちゃったのね」
「うーん、そうなのよね...」
「いじけてないで、会いに行ってあげればいいのに」
結月はウイスキーをロックで飲む。
「彼氏に癒やしてもらえれば良いんじゃない?元々、凛はノーマルな子よ。私みたいに早くから覚醒しているタイプじゃないわ。いずれいつかは私の前から姿を消すわけよ」
酒が入った結月は、普段とは違ってよく喋る。雰囲気も砕けている。
「だったら、私が癒してあげようか?」
バーテンダーは真剣な顔で結月を見る。
「またまた。冗談はよしてよ」
バーテンダーはカウンター越しに結月の手に触れる。
「本気よ。普段のあなたも、お酒を飲んだあなたも魅力的よ」
「私はね、女性とはワンナイトはしないの。前にも言ったよね。心の繋がりは女性、愛欲は男性なの」
「ワンナイトじゃないでしょう?ここで何十回と会っているし、話もたくさんしている。私ならあなたをよく知っているから、たくさん愛してあげれる。お試しで癒されてみない?」
バーテンダーこと、
結月の仕事がない日曜日に、晶子と落ち合う事になった。
酒が入っていない結月は何とも言えない色気があり、多少冷たく感じる。
晶子は結月の手を取る。
「ここではやめてくれる?」
晶子は慌てて手を離す。
「ご、ごめんね。クリニックからそう遠くはないんだっけ」
「で、何がしたいの?癒やすって」
「まずモーニングを取ってゆっくりとして、午後になったらお見舞に行くのはどう?」
「お見舞は聞いてないんだけれども...却下。まだ、あなたと寝るほうがましだわ」
「寝てくれるの!」
「あなたの奢りでね」
「家に来る?」
晶子は結月とのこういうやり取りが好きだった。
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