掌編小説・『ハチャメチャクイズバトル・名前の由来』

夢美瑠瑠

掌編小説・『ハチャメチャクイズバトル・名前の由来』




掌編小説・『名前の由来』




「究極の頭脳王決定戦!今度は第三ラウンド、「名前の由来知ってますか?」です。改めてご紹介すると、赤色は東大医学部のIQモンスター・阿玉伊井造さん。白色は京大大学院のプリンス・頭抜手賢子さん、青色は芸能界きってのひらめき王・武者小路輝星さん、緑色はハーバード大から参戦のアインシュタイン・ホーキング博士。それぞれ数々のクイズ番組で抜群の成績を上げているつわもの揃いです。ここまではほぼ横並びの展開で、勝敗の行方は予断を許しません。このラウンドでは、色々な、珍名の人物や動物、地名やら建物やらそういう事柄の命名の由来を答えていただきます。それでは第一問!「作家・有栖川有栖さんのペンネームの由来は?」「バーン!」「はい、頭抜手さん!」「京都の同志社大学の正面に有栖川邸というのがあって、名前は不思議の国のアリス」「ピンポーン!正解です。有栖川さんは同志社大学出身で、作り物っぽい名前というので、ルイスキャロルの小説からこの名前を作ったそうです。」では第二問です。「木星の衛星ガニメデの名前の由来は?」「バーン!」「はい、武者小路さん」「ギリシア神話の美青年、ガニュメーデ!」「ピンポーン!」「ハイ正解です。ガニュメーデというのはイーリオスという神様の子供で、永遠の若さと美しさを与えられていたそうです。では次の問題、チチカカ湖という湖の由来は?」


「バーン!」「ハイ、阿玉さん!」「チチはピューマ、カカは岩。」ピンポーン!「チチカカ湖を南北逆さにするとピューマの形に見えるからだそうです。では第四問。アゼルバイジャンという国名の由来は?」「バーン!」ハイ、ホーキング博士!」「ペルシャ語で火を意味するアゼーから!」ピンポーン!「正解です。拝火教と呼ばれるゾロアスター教徒が多い土地だったからだそうです・・・」・・・こうしてクイズは続いていき、4人とも博識ぶりを披露して、いずれ劣らぬ健闘ぶりで、成績は拮抗していた。とうとう4人が同点となって、勝敗の帰趨は、最後の一問に託された。「それでは最後の一問になります。時間が押しているので、これに正解者が出ない場合は、賞金はキャリーオーヴァーになって、来週の放送に持ち越されます。超難問です。シコタンマグモインドロキセイキリバチという蜂の名前の由来は?」「カッチ・カッチ・カッチ・・・」ブー。「ハイ、正解出ませんでした。神のような知識を持つ皆さんでも分からない問題があるんですねー。逆に驚きました。これは、宇曽場雁という作家の小説に出てくる架空の昆虫です。誰も読んでいなかったようですね。由来を説明すると・・・色丹島にマグモという蜘蛛がいて、泥の中に巣を作ります。この蜘蛛にキリバチという蜂の仲間が寄生するという習性があるのです。で、キリバチというのは細長い体形の先っぽに針が突き出ていて、錐を思わせるハチだからそう呼びます。どうもこれはさすがにマニアック過ぎたようですね。残念でした。来週に同じメンバーに集まってもらって雌雄を決することにします。ではさようなら・・・」画面はスポンサー名の告知に変わり、番組は終わった。もちろん最終問題はスフィンクスの謎のごとく、視聴者全員を含めて、解答できたものは誰もいなかった。それもその筈だった。視聴者も出演者も誰も気が付かなかったが、この問題は、実は正解を出したくない、視聴率が沸騰しているので、視聴者の興味を来週まで引っ張りたい、そういう場合に用意していた冗談難問だったのだ。宇曽場雁というのはクイズ作家のペンネームで、未発表の小説でそういう変な昆虫を登場させていた、その引用をしておいただけだった。


が!この奇天烈な難問にオイディプス王の如くテレビの前でたった一人だけ即答していた男がいた。男はテレビを消すと、「うーん、多少は歯ごたえのある問題も出すじゃないか」と憫笑めいた笑いを漏らして寝ころんだ。彼は今までにクイズというクイズ番組を趣味で見ているが、全て瞬時に回答して、一問として絶対に間違えたことがないという「クイズの神様」のごとき男だった。男のアイ・キューは人類史上最高レベルの280あったが、あまりに頭がよくて何でも分かって知っていて全て見通せるので、それで逆に何もやる気が起きず、生活保護で暮らしながら普段はひたすら座禅を組んで瞑想を続けているという天涯孤独の異能の人だった。学校に行ったこともなくて、国会図書館に通って手当たり次第に濫読をして、驚異的なスピードで万巻の書を読破しつつあった。今、男の興味は「人間のサイキックなパワーの解放」ということにあって、男の予想では人間の脳というものを100%開発しきった場合には驚異的な超能力が顕現して、その人は全知全能の神、キリストや釈迦をしのぐ救世主になりうる、瞑想を続けるうちにそういうことがほぼ確信に変わりつつあったのだ。


しかし、不幸なことに男は深酒が祟って、肝臓のがんに侵されていた。余命は約3か月。


それまでに最終的な悟り?を開いて人類を救えるか?あるいはがんをも治して世界にユートピアを齎(もたら)せうるか?


このクイズの問いは人間の歴史上最も重要で最終的だが、さすがの男にも解答不能な難問であったのである・・・




<終>


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掌編小説・『ハチャメチャクイズバトル・名前の由来』 夢美瑠瑠 @joeyasushi

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