第48話 夢の中へ

「はい、お見舞いの品ですよ」

「足折るとか、須田っちもドジやなあ」


 片足が吊られて、病室のベッドで横になる俺の見舞いに来てくれたのはカミラとつらら。

 

「うるさい。ていうか妖子さんの破壊衝動をなんとかしろ。俺は死にそうだったんだぞ」

「まあ、あの二人のバトルに飛び込む須田っちも須田っちやで」

「ああしないとまたアパートが吹っ飛ぶだろ。いい加減なんとかならないのかよ」


 足の痛みと共にイライラが募る。

 それにこんな姿では仕事も、ガールズハントもできやしない。

 いや、学校に行けないという心配も、もちろんしてるけど。


「で、妖子さんとりんさんは?」

「麒麟は怪我によう効く薬を探してくれとるで。妖子ちゃんは、なんや知らんけどイライラしとったな。せやからうちに置いてきた。ここ来たら、病院ごと吹っ飛ばしそうやし」

「なんであの人がイライラしてるんだ。帰ったらマジで文句言ってやる」


 最近の妖子さんは確かにピリピリしてる気がする。

 もしかして妖怪大戦争の決戦の日が近いからとか、そんな理由なのだろうか。


「まあ、あの人がいないんじゃ仕方ない。カミラ、俺の看病よろしく」

「え、嫌です。私は帰りますよ」

「え。じゃあつららは」

「うちもパス。金にならん仕事をせんのが関西人の」

「義理人情ってもんはないんかお前ら!」

「「ない」」

「……さいですか」


 結局二人はさっさと帰った。

 薄情な奴らだ。

 それに見舞いにすらこない妖子さんはもっと薄情だ。


 もっと、こう、なんていうか入院イベントって楽しいものを想像してたけど。

 現実は甘くはない。


 それこそナース姿の妖子さんが来て、はいあーんとか言ってりんご食べさせてくれて添い寝してくれるとか、そんなことが。


 ……あるわけがない。

 考えてるだけ虚しくなるな。


 ああ、もう寝よう。

 早く足、治らないかな。



「こら、いつまで寝てんのよタコ」

「……妖子さん?」


 昼寝をしてしまったようで。

 目を覚ますと妖子さんがいた。

 ナース姿で。


「え!?」

「なによ、驚くことはないでしょ」

「い、いや、なにその恰好」

「ナースよ。コスプレじゃないわよ。バイト」

「バイト……」


 白衣に、ミニスカート。

 いつも着物姿の妖子さんの生足を始めてみたが、びっくりするくらい綺麗だ。


「……」

「ジロジロみないで変態。殺すわよ」

「あ、いや」

「今日は潜入捜査なのよ。この病院、大学の経営してるところなんだけどなんか最近不穏なことが起こるとかで。妖怪の仕業じゃないかって」


 この病院では、最近勤務している人たちがこぞって不思議な夢を見るという。


 未来に行った夢。

 今とは違う今を生きている夢。

 

 そんな夢を見て、しかもそれが妙にリアルで現実との境がわからなくなりそうになるという。

 

「それって」

「枕返しね。多分この病院のどこかにそいつはいるわ」

「……え、そんなとこに入院させられてんの!? やだよ!」

「つべこべいうな。金ないでしょあんた」

「……」


 金はないけど、それはお前が浪費するせいだと。

 しかし寝たままの状態でそんな反論をしても多分燃やされるだけだし。


「とにかく。夜になって変な気配を感じたら私を呼びなさい。この病院には待機してるから」

「え、ここにいてくれないの? 看病とか」

「するわけない」

「で、でも一応仕事じゃ」

「ない」

「いやいや、でもそれならやっぱりコスプレ」

「なわけない!」


 最後はキレ気味に。

 そう言われて俺は黙った。


 コスプレ、嫌いなんだな。


「とにかく、寝てなさい。そのうち麒麟がクスリを作って持ってくるわよ」

「まあ、寝るしかないか。じゃあおやすみなさい」

「ええ、おやすみ」


 俺は、日ごろの疲れもあってかすぐに眠りについた。


 ふわーっと、いい気分だった。


 そして気が付けば。

 

 大学にいる。


「あれ、ここは?」

「あら須田、寝てたの?」

「よ、妖子さん?」

「もう、妖子さんなんて、昔みたいに呼ばないでよ」

「え?」


 私服姿の妖子さんは、なんか心なしか女の子っぽく見える。

 そして距離が近い。


「……あの、これは」

「今日、私たちが付き合って一年ね。記念日だし、ご飯行くんだよね」

「付き合った? 記念日?」


 あれ、どういうことだ?

 俺は確か、怪我をして入院してたんじゃ……


 それに妖子さんと俺が付き合ってる?

 ん? 


「いやいや、何言ってるんだよ! え、どうかしたのか?」

「え、須田は私のこと嫌いになった?」

「え、いや、そうじゃなくて、だな……」


 どうしたんだ。

 妖子さんが可愛いぞ。

 いや、元々美人なのは知ってるけど。


 死ぬほど可愛いぞこいつ。


「ええと、俺と妖子さんは付き合ってるんだよね」

「もう、改めて何よ。昨日だって朝までずっとイチャイチャしてたじゃない」

「朝まで!?」


 なんということだ。

 このウルトラ美人と朝までイチャイチャしていたというのに、俺にはその記憶が一切ない。


 おい、昨日の自分よ。


 マジで変わってくれ!!


「今日も、ご飯食べたら家に行っていいよね?」

「あ、うんもちろん」

「じゃあ、今日は楽しもうね」

「う、うん」


 これは夢だ。

 そう思って頬をつねってみた。


 すると、なんとこれが痛いんだわ。

 夢じゃない。夢じゃない!


 夢じゃない!


「妖子……」

「なあに」

「い、いや、呼んでみたかっただけだよ」

「もう、おかしな人」


 もう一度。

 俺は今度は足をつねってみた。


 するとこれが痛いんだわ。


 夢じゃない……夢じゃない!?


 ……夢じゃない!!

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