第30話 鬼が来る
「そういえば妖子ちゃん、今は大学で何してるの?」
「そうねえ、仕事メインかしら。悩める半妖を助けるっていう立派な仕事よ」
「えー、かっこいい。じゃあ須田さんやつららさんも?」
「うちは最初、助けてもろた側なんやけどな。須田っちはバリバリやで」
「ああ、俺もだいぶこの仕事が板についてきたというか。なんか困ってる子がいたらいってくれよ」
今は居酒屋で。
つららは反省を生かしてノンアルだけど妖子さんは昼からビールをガブガブ飲んでいる。
高校生を連れてこれっていいのか?
半妖だからありなのか?
コンプライアンスの問題にそわそわしながらも、酒を飲む妖子さんが上機嫌なのでまあよしと、勝手に納得するところである。
「そういえば一人、最近悩みがあるって言うてる子おるで」
「ほう。それは誰?私の知ってる子かしら」
「知ってるも何も。紅葉よ」
「却下。あの子は勝手に死ね」
「でも、最近ずっと謎の体調不良で困ってるんだって。彼氏の阿倍野君に訊いても原因がわからないって」
「自業自得よ。あんなものほっときなさい」
「あのー、紅葉って、誰?」
地元トークについて行けず、恐る恐る話に割って入ると、妖子さんがものすごい形相で俺を睨みつける。
「何よ、あんたも紅葉が気になるの?」
「い、いや。だから誰だよそれ」
「私の親戚。
「親戚と仲悪いのか……。てか鬼って、その子も半妖なのか?」
「ええ。そのくせ高校入学早々にイケメン陰陽師と付き合ってラブラブ具合を散々見せつけてきて、中二病のくせにいい男捕まえて、おでこから角出てるくせに彼氏がいて、あーくそ!!」
「男がいるってのが気に入らないだけじゃん……」
しかし親戚が鬼とはなあ。
でも、きっとその子も美人なのだろう。
うーん、案外半妖の子というのはねらい目なのか?
ちょっと特殊だけど基本可愛いというのはやはり大きなメリットだけど……うーん。
「で、紅葉の体調不良の原因を探れと?」
「まあ、妖子ちゃんが嫌じゃなかったらどうかなって」
「嫌。以上おわり」
「……」
「と言いたいところだけど、まあやってあげるわよ。その代わり私じゃなくて。イズナ、出てきなさい」
呼ぶと、片肘ついた妖子さんの袖からにょろりと、管狐が顔を出す。
「あ、イズナおひさ!」
「ナナか。久しぶりじゃな。それより妖子、仕事をするのはいいが報酬はないのか?ただ働きはさすがに」
「じゃあ仕事終わったら三時間自由時間をあげるわ。それでいいかしら」
「う、ううむ。それだけか?」
「なによ気に入らないならさっさと引っ込めバカイズナ」
「ひどいのう……」
何しに出てきたんだと言わんばかりにイズナはさっさと筒に戻された。
……かわいそうだよ、お前。
「あんなの頼りにした私が間違いね。さてゴミ、じゃなくてスミ、じゃなくて須田君。早速行け。はよ行け、帰れ。金おいてどっかいけ」
「雑か!酔っててもちゃんとしろ!」
「うるさい、私はもう寝るから。なんならナナも連れてってあげて」
「ええ……」
妖子さんはビールをまたぐいっと。
そして千鳥足で店を出て行った。
「……全く、どうすんだよほんと」
「妖子ちゃんはかわらないなー。てか須田さん、めっちゃ懐かれてますね」
「あれで?いや、ないでしょそれは」
「妖子ちゃんって基本人と仲良くしないから。須田さんは気に入られてますよ、絶対」
「だとしたらもっとわかりやすい愛情表現をいただきたいものだ……」
結局このあと店を出てつららは家に帰った。
そして俺はろくろ首のナナちゃんを連れて、妖子さんの親戚という鬼と会うことに。
「しかし妖子さんに会いにきたのにナナちゃんもやれやれだな」
「こんなことになるかなって予想してたので。それより須田さん、さっきからずっと須田さんのこと睨んでる人いますけど」
「ん……あ、あれは?」
電信柱の影からすごい形相で俺を睨むひとりの女を発見。
麒麟だ。
りんさんだ……
「須田君の浮気者。神罰を加えてやる」
「ま、待て待て!浮気って俺は誰とも付き合ってないだろ」
「私というものがありながら女子高生をたぶらかすとは笑止千万、死になさい」
「こ、この子は妖子さんの後輩なんだって!」
「後輩? 後輩にまで手を出すなんてこのヤリチンめー!」
「なんかお前キャラ変わってるって!」
散々麒麟に追い回された。
最後は俺が道端で土下座して、「すみませんでしたー!」と何度も叫んだところで誠意が伝わったようで。
麒麟の機嫌はよくなった。
代わりに通行人たちから変な目で見られた。
もう、普通の大学生活は無理だな……
「須田君、今回はその子の手伝いなの?」
「ええ、正確にはナナちゃんの友人で妖子さんの親戚である鬼の子の相談を受けるんだけど」
「ふーん。今日は帰ってくる?」
「アパートに?まあ帰るけど」
「そっか。うん、わかった。じゃあまたね、須田君」
「あ、ああ」
麒麟は去る。
そういえば引っ越しは終わったのだろうか?
……嫌な予感しかしないな。
「あの人、須田さんの彼女さんですか?」
「いや、断じて違う」
「じゃあやっぱり須田さんは妖子ちゃんのこと、好きなんだ」
「それも断固否定する。あんな人好きになったらそれこそ終わりだ」
「あはは、妖子ちゃんは可愛いしいいと思うけどなー」
「どこがかわいいんだあれの……」
ナナちゃんは本当に妖子さんのことが好きなんだということがよくわかる。
もう一人の後輩の雪花ちゃんなんかもそうだけど、みんな随分と妖子さんを慕っているが、あの人のどこにそんな魅力があるのだろうか。
まあ、豪快な性格というのはわかるけど、口は悪いし仕事しないしエラそうだし。
俺にはどうも彼女の魅力ってもんがまだ……うーん。
「あ、もうすぐ来るみたいですよ」
「ふう。今はあの人のこと考えてる場合じゃないな」
「いたいた。もみじー!」
ナナちゃんが呼ぶ。
すると向こうからやってきたのは黒髪和服の美人な女の子。
聡明な、でもどこか妖子さんに似ているともいえる顔立ちの子。
額には……小さな角が。
「ナナ。おつかれー」
「おつかれー。この人が妖子ちゃんの仕事仲間で、今日相談に乗ってくれる須田さんだよ」
「す、須田です。あの、妖子さんにはいつもお世話に」
「ほう、おぬしがかのものか。構わぬ、頭をあげい」
「……はい?」
「なんと、おぬしには我が邪眼の呪いが通じぬと?ほほう、妖子と共に行動するだけのことはあるようじゃな」
「……あのー」
なんか急に変な態度になった。
邪眼? 呪い? 何の話だ?
この子からはほとんど霊力も感じないけど、何かすごい呪術でも……
「あの、須田さん」
首を傾げているとナナちゃんが、俺の耳元で小さな声で呼びかけてきた後、そのままのトーンでこそっと。
「この子、中二病なんです」
とか。
……あー、なるほどね。
「何を話しておる。わらわの前で失礼ではないか。 それよりはよう案内せい。須田とやら、今度勝手な真似をしたら我が奥義で滅するぞ」
「……ええ、どうぞお構いなく」
また変な奴が現れた。
今度は鬼。一角の鬼。妖子さんの親戚。中二病。
ナナちゃん曰く「今日は邪眼の力を秘めたる呪われし女王の設定だって」とのこと。
……めんどくさい。
今日は一段とその一言に尽きるのである。
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