半妖美女たちの相談にのることになったのだが、そのせいで授業が全くうけれません
天江龍
第1話 妖狐、現る
突然だが、怪異が実在すると信じている人はどれくらいいるのだろうか。
妖怪変化。異類異形。牛頭馬頭。魑魅魍魎。
この世のものとは思えないおぞましい力を持つそれを、空想の中の生き物と思っている人は多いのではないだろうか。
しかしこの世には、人の想像を遥かに超える存在がたしかに存在する。
そして俺も出会うこととなる。
この世のものとは思えないほど美しい。
怪異に。
◇
「えー、ですから新入生の皆様におかれましては……」
俺は
今は入学式の真っ最中。
しかしながらなんともまあ人の多いことか。
同級生だけで軽く一万人は超えている。
ここにいる人間のどれだけと、四年間という短い時間の中で出会い、別れるのか。
そんなことを考えながら、学長とやらのつまらない話を聞き終える。
そして大きな体育館の外に出ると、満開の桜が。
いよいよ、俺の新しい人生が始まるのだ。
高校時代は、お世辞にも楽しい毎日だったとは言えなかった。
理由はわかっている。
それは、俺の持つなんの役にも立たない気味の悪い力のせいだ。
俺は霊や妖怪が見える。
それは代々伝わる須田家の血筋によるもの。
大昔。まだ貴族や武士が存在していた頃にはそれはそれは優秀な霊媒師として幕府からも重宝され、先祖代々いい暮らしをしていたそうだが。
この現代においてその力はなんの役にも立たず、むしろ俺の人生の足を引っ張ってばかりだった。
思い出したくもないが忘れることもできない過去ばかりだ。
中学生の時、初めて好きになった子に取り憑いた幽霊を退治してあげようと、「肩、見せてごらん」といったらキモがられ、翌日から「地獄変態ぬーげー」というあだ名をつけられた。
高校の時、もうその失敗を繰り返さないためにと幽霊を見て見ぬふりしていたのだが、ある時クラスで何人もの生徒が謎の体調不良に襲われた。
もちろん原因は幽霊。
低級霊が悪戯をしていたのだ。
俺は迷った挙句、そいつを追い払おうと学校の屋上で一日中念仏を唱え続けた。
しかし集中していたせいか周りが見えておらず、もれなくそれをクラスの連中に見られてしまい、頭がやばいやつ認定された挙句つけられたあだ名は「オカルティックサイコ」。
それから二度と、誰も口をきいてくれなかった。
世のため人のため、陰でその力を使うのが霊媒師たる須田家のつとめと祖父に言われて育ってきたが、こんな冷遇なら話は別だ。
もう俺はこの力を使わない。
そう心に決めて、大学では新しい出会いに期待している。
附属高校からエスカレーター式に上がってきた奴らが多いこの学校では、すでに仲良しグループらしいのがあちこちにある。
県外の、それもど田舎からやってきた俺はもちろんひとりぼっちのスタートだけど、素敵な出会いを期待して一人で大学の敷地内を闊歩していた。
すると、
「おい見ろよあの子、めっちゃ可愛くね?」
「ああ。しかも銀髪に着物姿なんて萌えるなー」
大勢の新入生と、また在学生も混じって人だかりができていた。
彼らの視線の先にいたのは、それはそれは綺麗な銀髪を靡かせる、着物姿の女性。
フッと笑いながら振り向く彼女の目は少し切長で、その立ち姿はこの世のものとは思えないほどに美しい。
その端正な笑顔に、群れる男どもは皆一瞬で虜になっていた。
あんな綺麗な人がいるんだ。
やっぱり大学って、都会ってすげー。
俺もそんな感想をもったりはしたけど、でもお近づきになろうとまでは思わなかった。
きっとそれは、長年の陰キャ生活で染み付いた負け組気質のせいだろう。
あそこまでの高嶺の花とは、仲良くなる以前の問題だ。
まあ、どこかでまた出会ったら目の保養くらいにはさせていただこう。
俺にはそれくらいがちょうどいい。
目立たず威張らず前に出ず。
何人か友達ができて、そのうち身近な子と付き合って一緒に授業に出て。
そんなささやかな暮らしを俺は求めているのだから。
◇
一人暮らしの拠点は、大学から徒歩10分程度のところにあるボロアパート。
もちろん借りてもらえるだけありがたいので文句もないが、それこそお化けでも出そうな木造の古い建物は、歩くだけで床が軋み、風呂もなく近くの銭湯通いを強いられる粗末なもの。
「こんなところには彼女なんて呼べないなあ」
結局入学式の後に誰かと話すこともなくまっすぐ部屋に帰った俺は、汚い部屋の天井を見上げながら独り言を呟く。
しばらくそのまま横になっていると、やがてお腹の虫が目を覚ます。
「……腹、減ったな」
ちょうど目の前にはコンビニがある。
それがこのアパートの最大にして唯一とも言える利点だ。
なにせ大学から遠くないとはいえ、裏は墓地だし虫は出るし、玄関の鍵ぶっ壊れてるし周りにはコンビニと風呂以外他に何もない。
コンビニの灯りがなければ真っ暗で何も見えないどころかこのアパートすらどこにあるか見失いそうなところ。
こんな場所で四年間を過ごすと思うと、さっきまでの期待に満ちた心境とは真逆の、憂鬱な気持ちになってくる。
◇
「いらっしゃいませー」
コンビニは田舎も都会もそう変わったものではない。
だから落ち着くというか、立ち読みくらいしか娯楽のない場所で育った俺にとってコンビニはまさに天国だ。
代わり映えしないものばかりの陳列が妙に落ち着くんだよなあ。
早速雑誌コーナーに向かい、週刊誌を手に取って読む。
でも、結局やってることは今も昔も何も変わらないよな。
コンビニで立ち読みすることが至福の時間だなんて、なんて虚しいんだろう。
大学まできて何やってんだろなと、ため息がでる。
やっぱり、早く友達を作らないと。
そんなことを考えながら雑誌を読んでいると、隣に人がやってきた。
「お、あったあった」
そう言いながら本を手に取る人物を見て、俺は目を疑った。
昼間、大学で見かけた銀髪の彼女が、浴衣姿でそこに立っているではないか。
思わず見惚れた。
美しい髪、顔、スタイル。
どれも完璧だ。
彼女のいる場所だけ空気が違うような、そんなオーラすら漂う。
品性あるその姿を見る限り、きっとどこかのお嬢様に違いない。
しかしそんな彼女が一体何を読んで……ん?
「最近エロ本ってビニテ貼ってるの多いのよねー。でも、私はとっちゃうけどービリビリ」
俺は目を疑ったというよりもう信じなかった。
銀髪の美女が、18禁コーナーのエロ本を手に取り、立ち読みできないように貼ってあるテープを堂々と剥がし、それを立ち読みしだしたのだ。
「……いや、ダメだろそれ!」
思わず声が出た。
すると、俺を睨みつけるように彼女がこっちを見てくる。
「あなた、人の趣味に口出ししないでくれる?」
「え、いや趣味って……それ以前に勝手にテープ剥がしたらダメというか」
「ふーん、お堅い人なんだ。まあ、価値観は人それぞれよね」
と言って引き続きエロ本に目を向ける彼女。
いや、価値観以前の問題じゃないか?
「ほほー」と声を出しながらエロ本を読む彼女に、もう一度注意するか迷っていると、こっちに向いて店員がやってきた。
まずい、これは怒られるやつだ。
「あの、店員さんきてるぞ」
「ああ。大丈夫よ、ほい」
彼女は何食わぬ顔で店員を見る。
すると、まるで彼女のことが見えていないかのように店員がそのまま通り過ぎてトイレの方へ行ってしまった。
何が起きたのか。
不思議に思ってもう一度彼女を見ると、そこにはありえないものが。
「み、耳?」
銀髪の彼女の頭から、それはそれは大層な獣の耳が生えている。
猫、いや狐?
ま、待て待て、なんだこれ?
「あら、あなた私のチャーミングなお耳が見えるのね」
「え、それ、飾りじゃない、のか?」
「もちろん。なるほど面白いわね、ちょっと外で話さない?」
ケモミミを生やした銀髪の美女は、ウインクしながら俺を外に誘う。
俺は迷った。
美人とはいえ、彼女はなんらかの怪異か、もしくはそれに取り憑かれた何かに違いない。。
また、そんなものと関わることになると思うと、うんざりした。
でも、それでも自然と雑誌を置いて外に出てしまったのは彼女の力のせいだろうか。
それとも、単に彼女が美人だったからなのだろうか。
気がつけばコンビニの駐車場。
そこで彼女は振り向きながら、色っぽく自己紹介をする。
「私は妖子、
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