16
〜翌日〜
私はコウくんの家の前をウロウロしていた。
「……い……お〜い奏ちゃん?」
目の前に現れた人影にビックリする。
「あ……葵先輩!?どうしたんですか?今日は学校お休みですよ?」
「いや。昨日はあんな事があったし、奏ちゃんと臣くんのことが気になってね」
「あっ。コウくんなら家にいますよ。塾行ってたみたいなんですけど、具合悪くいのか帰ってきたみたいです……」
今日も曲作りをしようとしていたのだが、昨日の今日で全然集中できず、窓を開けて新しい空気を取り込んでる時にちょうどコウくんが家に帰ってくるのが見えた。
「やっぱり昨日のことショックが大きかったのかな……」
ボソッと呟く。
「うーんまぁショック受けてるだろうね」
私はコクっと頷いた。
「ねぇせっかくだし、臣くんへの応援ソング一緒に作らない?」
葵先輩が続けて話した言葉の意味を少しだけ理解するのに時間を要した。
「えっ?」
「臣くんだけじゃなくてさ、他にも同じように傷ついてる人がいるかもしれないでしょ?臣くんは直接言っても大丈夫って言いそうだしさ。曲なら1人の時だって励ませるでしょ」
葵先輩が手を差し出してきた。
私はどうしていいのか躊躇していると葵先輩は私の手を掴み歩き出す。
「ほらっ。早速スタジオに行こう」
「ちょっと……」
私は掴まれた手を振り解こうとしたが意外にも力が強くて振り解く事ができなかった。
スタジオに着くと葵先輩は受付にいる人に借りるよといってカードを1枚借りると1階にある部屋の前に連れたきた。
先程借りたカードをかざすと扉が開き、中にはギターやベースなどがいくつか置いてあった。
葵先輩はその中から1つギターを手に取るとスタジオへと移動した。
「じゃあ始めよう」
チューニングを終えた葵先輩が言った。
「作るってどうやって?」
「どうって?そこにピアノあるだろう?」
「いや、ありますけど……そんな気分じゃ……」
昨日の夜すら全然進まなかったのに進む訳がない。
「臣くんを励ましたいのだろ?僕達は創作者だ。辛くても曲を作らなきゃいけない時が来る。臣の心の傷は目には見えない。傷ついていたとしても俺や……まして君には心配をかけたくないといつも通り振る舞うんじゃないか?」
「……」
葵先輩は急に席を立つと扉の方へ向かった。
「あの……どうしたんですか?」
「ごめん。ここ今日は自由に使っていいから」
そう言うと葵先輩は出て行った。
えっ……?どう言うこと?一緒に作るんじゃなかったの?強引に連れてきたのに1人で作れって……。
はぁ。でも確かにコウくんになんて声かけていいかわからないし、伝えたい想いを曲で届けよう。
葵先輩に無理矢理連れてこられたので、紙もペンも何も持っていない。
基本曲を作るときは書き出しているのでどうにも落ち着かない。
幸い携帯は持っているので録音すればいいのだろうけど……。
しばらく悩んだ後、録音しながら曲を作っていくことにした。
いざ曲作りを始めたら熱中していたようで時計を見たらすでに3時間経っていた。
それにしても葵先輩急にどこに行ったんだろう?
強引にスタジオに連れてきたのに急に消えた事が気になった。
今日はここのスタジオ使っていいって言ってたけど、さすが長居するのも気が引ける。
あとは家で作ろう。葵先輩が持ってきたギターを手に持ち、受付へと向かう。
「あの……。これ葵先輩が置いて行ったやつなんですけど……」
私は受付の人へギターを渡すと、その人は一瞬固まり「ありがとう」と言ってギターを受け取った。
「あの葵先輩ってどうされたのかわかりますか?」
受付にいた人ならわかるかと思い尋ねてみる。
「ごめんなさいね。私もさっき受付変わったばかりだからわからないわ」
「そうですか……。ありがとうございます」
お辞儀をしてスタジオを出ると家へ向かった。
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