第37話 魔人の生き残り

 魔人達が人間の城を囲む少し前のことである。


 魔人の王であるブラックのところに、食虫植物のような形をした蔓を出した生き物が捕らえられたと報告があった。

 それは植物に見えるのだが、蔓を手足のようにして、移動することもできる怪しい生物であった。


「ああ、これが種から育ったんだね。」


 正直、仕掛けた当人にすでに抹消されてると思っていたのだが、城の中にまだいたと言うのが意外なのだ。

 このなんとも言えない怪しい生物が封印の魔力を吸って育ったようだが、これ自体には攻撃的な能力は存在しないようであった。

 洞窟の封印が解けてしばらく経つが、今まで見つけられなかったのに、今になって出てきた事が、なんらかの意図が存在するのではと思われたのだ。


 ジルコンがこの生物に詳しそうなので、見てもらうことにした。


「あら、やっぱりプランツの肩に乗ってた生き物と同じ感じね。

 これ自身には大きな能力は無いのだけれども、作り出した魔人の力をもらい、この子自身が攻撃する武器みたいにもなるのよ。

 動き出すのも、魔人の指示だと考えられるけど・・・」


 ちょうど、ジルコンとこの植物を眺めていた時である。

 触角のように動いていたい蔓が一斉に動きを止め、口のような形の部分が開き、映像がうかびあがったのだ。


「ブラック様、お久しぶりでございます。

 プランツです。

 500年ぶりに復活する事が出来ました。

 同じように何人かの魔人が目覚めております。

 昔の事ではございますが、ブラック様の指示に従わず、このような有様でございました。

 一同、ブラック様のお許しが頂けるのであれば、異世界の方に行く事を希望しております。

 なにとぞ、500年前の過ちをお許しください。」


 そこには十数名の魔人が頭を下げ、控えているのが映っていた。


「ほほう。これで連絡を取る事ができるとは、すごいものだね。

 それに、何人もの魔人が生き残っていたとは驚きですね。

 ・・・まあ、私としては仲間である魔人であるから構わないけれど。

 ただ一つだけ、洞窟の封印を解いたのはどう言う事か説明していただきましょう。

 それが納得できるものであれば、問題ないですよ。」


 私の質問にどう答えるのだろうか?


「ああ。

 やはり、こいつの影響だったのですね。

 申し訳ありません。

 500年前の戦いの時に、色々なところに種を置いて、多くの情報を得ようと思っておりました。

 見ての通り、このしもべを通して、周りの状況を読み取れたり、連絡を取る事が出来るのです。

 まさかその時の種が異世界転移の道具に付いていたとは、思いもよりませんでした。

 私の魔力が届くところであれば、すぐに成長するのですが、そうでない場合は周りの魔力を取り込んで成長するのです。

 まさか、500年の時間をかけて成長したとは私も驚きです。

 私は人間である時に王室に仕えておりました。

 その時の話では銀髪の魔人が異世界との繋がりを作ったと聞いておりましたが。

 何にせよ、復活した我々にとってはそちらの世界への道が開けたことはありがたいですが。」


 なるほど。封印は意図せず解いてしまったが、洞窟の出現は関係ないと言いたいわけか。

 クオーツは誰かにそそのかされたと思われるのだがね。


「そうですか・・・。

 予想外にこの植物が魔力を吸った事で封印が解かれてしまったと言う事ですね。

 わかりました。

 では、人間の王に今後の事で話をしに行く予定でしたので、その後に君たちに会いに行くとしましょう。」


「ああ。お会いできるのを楽しみにお待ちしております。」


 そう言うと、通信が途絶えたのだ。


「ネフライト、この奇妙な生き物を魔法を封じる牢にでも入れておいてくれ。

 動き回れると、厄介だからね。

 それに通信も最後にしたいからね。」


 部屋の外にはジルコン以外の幹部の者達が控えており、通信の一部始終を聞いていたのだ。


「ユークレイス、どうだい?

 あの魔人の真意を読み取れたかな?」


「ええ。もちろんでございます。

 遠隔ではありましたが、問題ありません。

 500年前であれば、残念ながら私と同等の力ゆえ、読み取ることは困難でありましたが、昔とは違いますので。

 あちらは、500年前のままの復活ですからね。」


 こちらにはユークレイスがいることがわかっているはず。

 並の魔人では心のうちは読まれてしまうのだ。

 気にせず通信をしてきたと言うことは、この500年の差を忘れていると言うことか。

 やはり、その程度の魔人。

 だから、ハナの薬をみくびった報いを受けたのだろうが。


「ユークレイス、プランツから読み取った真意を幹部全員に送ってくれ。」


「はい。速やかに。」


 すでに、私がするべき事は決定済みで、後はみんなに伝えるのみであった。

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