第35話 魔人プランツ

 ・・・忌々しい娘だ。

 500年前を本当に思い出す。

 今まではシンブと名乗り薬師を演じてきたが、これは人間である時の名前であり、私にはプランツという名前があるのだ。

 久しく呼ばれる事は無かったが、ついにこの名前を復活する時が来たのだ。


 思えば500年前、人間との戦いを選んだ私は一部の仲間と、魔人討伐集団の本拠地になっていた城までたどり着いていた。

 ここで人間を降伏させれば、この世界は我らが魔人のものとなるのも、時間の問題と思ったのだ。


 魔人を消滅させる闇の薬の存在はブラック様から忠告されてはいたが、この城に到達するまでは遭遇することもなく、あっという間に人間達を倒してきたので、頭の片隅にもなかったと言うのが本音であった。


 しかし、その城に着いて、降伏を促そうとした途端、人間どもから闇の薬を投げられたのだ。

 すぐに辺りは黒い煙で包まれ、自分の中に吸収されるのがわかったのだ。

 それと同時に、どんどんと自分の力が無くなるのを感じた。

 そして、自分の身体が痩せ細り、末端から崩れていくのが見えるのだ。

 痛みという感覚は通り越して恐怖しか無かったのだ。


 自分は消滅したと思ったのだが、その崩れた身体を見ている自分がいる事に気づいたのだ。

 つまり、魔人である核は消滅しなかったのだ。

 だが、肉体が存在しないため、何もする事が出来ない状態になったのだ。


 その後、精神の弱い人間であれば、身体を乗っ取る事が可能であるとわかった。

 しかし、以前のような魔法も力もなく、ただの人間としてしか生きる事は出来なかった。

 その人間が老化により死亡するとまた私は別の人間に入る事が出来たのだ。

 それを繰り返しているうちに、自分の中の本来の力が少しずつではあるが戻ってきている事がわかったのだ。


・・・そして、あれから500年ほど経った今、本来の自分の力が元に戻ったと感じられたのだ。

 種として仕込んでおいた私のしもべを使い、洞窟を復活させる事にも成功したのだ。


 しかし、これからという時に、予想外だったのはあの娘なのだ。

 あの娘が作る薬は500年前の闇の薬と同じであるのだ。

 早いうちに手を打たねばと、策を練ったがこの有り様だ。

 だが、今回ばかりは邪魔をさせるわけにはいかないのだ。

 

 この世界だけでなく、ブラック様が行かれた世界も自分の手にする事をこの500年ずっと思い描いていたのだから。


 魔人プランツは今までの老人の身体を脱ぎ捨てるように、本来の姿に変身したのだ。

 茶色い頭髪の、深緑の皮膚を持つ細身の魔人に。

 肩にはあの洞窟の封印を解いたしもべと同じような生物が乗っていたのだ。

 

 ふと、近くで魔人の気配を感じたのだ。

 やはり、自分だけでなく復活できた者はいたのだと確信したのだ。


「プランツ様、復活、おめでとうございます。

 是非、ご一緒していただければと思います。

 ご友人の方もすでに復活を遂げておられます。

 プランツ様がいらっしゃるのをずっとお待ちしておりますよ。」


 そこには1人の魔人が控えており、プランツの復活を待っていたのだ。

 その者の話によると、私の予想よりも復活した者が多かった事に、私は心から嬉しくなったのだ。

 これで、少なくともこの世界を手中にするのは簡単であると思えたのだ。

 500年前とは違い、もちろん、闇の薬も今回は忘れず警戒するつもりでいるのだから。


 私は待っていた魔人から思念を受け取り、他の者が集まっている場所に移動したのだ。

 魔人としての復活を果たす事が出来たので、移動も一瞬であるのだ。

 ただ、魔人となった事により、対魔人の結界がある所、つまり城などには簡単に入る事は出来なくなったのだ。

 

 移動した場所には久しぶりに見た顔があったのだ。


「やっと復活したのね。

 待ちくたびれたわ。」


「お前が復活しない事には話にならんからな。

 まあ、洞窟が出現した話を聞いた時から、もうそろそろとは思っていたがな。」


 すでに復活を遂げていた二人の戦友、ストームと、グラウンが奥から声を上げたのである。


 ストームは、風や嵐を操作する事が出来る魔人で天候も変える事が出来る力があるのだ。

 シルバーの髪で、見た目はまだ少女のような姿の魔人なのだ。


 グラウンは地形を操作できる魔力を持ち、大柄な筋肉質で褐色の皮膚を持つ魔人であった。

 

「ああ、悪かったな。魔力が戻るのにかなり時間がかかってしまったよ。どのくらい待たせたかな?」


 ストームが得意げに話し始めた。


「私は1年前よ。グラウンは半年前に復活したわ。

 どうも、魔力が多い方が復活にかかる時間も長かったみたい。

 格下の者のが早かったみたいよ。

 でも、弱すぎる者は完全に消滅してしまったけどね。」


 なるほど。

 そういう訳で、私が最後なのは頷けるのだ。

 私を含めこの3人がいるなら、きっと計画は成功するであろう。

 

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る