第34話 仮説

 前回の幹部招集から1週間ほど経ち、再度みんなの意見を聞く事にした。


 幹部を疑ったこともあるが、あの娘と話していた時に感じた気配で、もう一つの考えが浮かんだのだ。


 ネフライトから幹部が全員揃ったと聞き、広間に向かった。


「みんなには悪かったね。

 考えてくれたかな?

 ちょっと気になることがあったのだよ。

 先日洞窟の結界を確認しに行った時、向こうの世界で魔人の気配を感じたのだよ。

 結界を破られた形跡も無かったし、考えられる事は・・・」


「すでにそこに存在していたという事ね?」


 ジルコンは深刻な顔で話し始めた。


「私の考えを言うわね。

 人間との付き合い方はブラック、あなたに任せるわ。

 この世界に移住するときに、あなたに従うと決めたのだから、今回も気持ちは同じよ。

 それと、洞窟の事だけど、今ブラックの話を聞いて思い出したことがあるの。

 異世界への移住に反対した魔人の中に、植物を操る者がいたと思うの。

 人間に消滅させられたと思っていたけど、もし生き残っていれば、人間にも移住を決断したブラック、あなたにも強い恨みを持っているかもしれない。

 だから、洞窟の封印を解いて、何かしようと考えているのかも。

 その者なら、できるかもしれないの。封印を解く事が。」


 なるほど。

 私の勝手な判断で移住を決めた事で、人間達に敗北したと思うならば、私への恨みもあるだろう。

 ただ、どうやって洞窟の封印を解いたのか?

 強い魔力を気付かれずに?

 それも今の時期に?


「よろしいでしょうか?」


 ネフライトが立ち上がった。


「もしかするとですが、消滅寸前まで追い込まれた事で、なかなか復活をする事が出来なかったのではないでしょうか?

 やっと500年ほど経ち、以前の力を取り戻してきたと言うのは?

 まあ、ブラック様が感じた魔人が500年前の生き残りであるならばですが。」


 その可能性はあるのだ。

 少し前に見たクオーツに使われた薬は消滅するまでには至らなかったし、薬の配合量によって違うと思われるのだ。


 ユークレイスが話し出した。

 

「すでに500年前に何か仕掛けがなされてたのではないでしょうか?

 そうでなければ、ブラック様の封印を解く事は不可能かと思います。」


「もしもよ、あの植物を操る魔人であればだけど、封印前に種を仕込んでいれば封印を解くことも可能かもしれないの。」


 ジルコンは仮説を立てたのだ。


 もしも封印前にその種を仕込まれると、封印後、少しづつ封印に使われている魔力を吸収して育っていったのかもしれないというのだ。

 毎日微々たる魔力の消耗が起こるだけなので、誰にも気付かれる事はないのだ。


 そして、どんどんと魔力を吸収して植物は大きく力をつける事になり、その魔人の手足として動く事ができると言う。

 500年と言う長い時間をかけて、封印に使用された魔力は無くなり、封印が解かれたと考えられるのである。

 そして、その植物を介して、クオーツに情報を与え、うまく奴を動かしたと想像できたのである。


 もしも、生き残りが同じ時期に復活を遂げたらどういう事になるだろうか・・・


「ブラック〜、そんな深刻に考えなくていいんじゃないかな?

1人の魔人が復活したところで、我らより格下の者。

どうにでもなるんじゃないの?」


 相変わらず、スピネルは物事をよく考えるのが苦手なようで、楽天的な考えである。

 まあ、それが長所でもあるんだが。

 

「いや、その仮説が正しければ、事はもっと厄介かもしれない。

 復活した魔人がその者だけとは限らないという事だ。

 それに、今回クオーツを動かしたように、生き残りの魔人達を支持する者が何人か出てきてもおかしくはないかも知れない。」


「そうなると、人間との付き合いをどうこう考える前に、その生き残りの魔人に対する策を考えるのが先になりますね。

 まあ、こちらに敵意を見せれば・・・ですが。」


 トルマは嬉しそうに話し出した。

 基本的にトルマは戦略、戦術を練る事を得意としていたし、戦いが好きな魔人なのだ。

 これまでの退屈した日常から脱することが出来ると思い、半分楽しんでいるように見えた。

 まあ、私の指示の範囲内なら何でも良いのだが。


 確かに種を付ける事は可能だったと思う。

 異世界移住を促した時、十数人の魔人は人間との戦いを求めて、自分の所に来たのを覚えている。


『ブラック様。

 何故戦わないのですか?

 なにとぞ、人間との戦いをお許しください。

 異世界に尻尾を巻いて逃げるような事は出来ませぬ。』


『お前達の気持ちはわかるが、あの闇の薬を使われると魔人でも消滅してしまうのだよ。

 お前達にも傷ついてほしくないのだよ。』


 あの時、私は説得したが納得はしてもらえず、その者達は私から離れていったのだ。 

 すでに私に落胆し、あの時に種を仕掛けたのかもしれない。

 その者たちの半分は上位クラスの魔人であったのを覚えている。

 その者たちであれば、復活をしている可能性が高い。

 私や幹部達には劣るが、何人かが集まり戦いとなれば簡単にはいかないかもしれない。

 ましてや、賛同者が現れれば尚更である。


「では、人間達との付き合い方については、後回しという事で。

 復活した魔人の処遇が決まってからに。

 皆さん、いいかな?」


 みんな、私の言葉に頷き、今後の対策を考える事にしたのだ。

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