第28話 魔人会議
城の中央広間に幹部たち5人を集めた。
幹部全員が集まるのは久しぶりであった。
まあ、それまで大きな揉め事もなく、幹部を招集することもなかったのだ。
はじめは各自の近況を聞くなど、和やかに始まった。
久しぶりではあるが、全員この世界に移り住む前からの付き合いなのだ。
そろそろ、本題に入る事にして、ネフライトに目配せした。
ネフライトが部下に指示を出すと、ヨタヨタと1人の銀髪の男が連れてこられた。
拘束された時よりは体力は回復しているように見えるが、以前と同じ人物とは思えないくらい見た目は老人のような風貌に変わっていたのだ。
手には魔法を封じる手錠がつけられていた。
「この者は何かしたのですか?」
ジルコンが不思議そうな顔でブラックを見た。
「異世界への洞窟を復活させたのだよ。
封印してあったものを勝手にな。
そして、人間の世界に行き暴れていたのだよ。
ああ、でもこれは私の制裁では無いよ。
人間の作った薬にやられたのだよ。
まあ、自業自得なのだがね。
人間もなかなかやるものだよ。」
「でも、洞窟の封印を解くにはかなりの魔力が必要だよねー。
この者にそんな力があるの?
そこまでの魔人と思えないけどな・・・」
赤髪のスピネルがクオーツの顔を覗き込みながら、陽気に話し出した。
「ユークちゃん、ちょっとこの人見てやってよ。君の瞳でなら真実が見えるでしょ。」
「なんでお前に命令されなければいけないんだ。」
ユークレイスは横を向いて不機嫌な態度になった。
「まあまあ、でもユークレイスには頼みたかったのだよ。真実の見える瞳でこの者の心を読んでくれるかな。」
「はい。ブラック様のご命令ならすぐにでも。」
ユークレイスは一礼して、クオーツの前に進んだ。
「なんで、僕が言ったらダメなわけ?盟友だよねー」
ジルコンにブツブツと愚痴を言っていたが、ユークレイスはお構いなくクオーツを見つめた。
クオーツはとても怯えた表情になり見られるのを嫌がっていたが、ユークレイスの青い瞳が光るとクオーツの意識は無くなりぐったりとしたのだ。
「今、思念で送ります」
ユークレイスはクオーツから読み取った過去の情報を思念でここにいる全員に送ってくれたのだ。
頭の中に映像が入ってきた。
・・・思った通りだった。
城の秘密の部屋にある水晶の中に、異世界転移に関する物を強力な魔法で閉じ込めておいたのだが、クオーツがその場に訪れたときには、すでに封印が解かれていたようだ。
何者かがクオーツにその場所を教えたようだが、クオーツ自身も誰かはわかっていなかったようだ。
しかし、クオーツにとっては、誰であれ異世界に行くことが出来れば良かったようだ。
クオーツは何故か、人間に深い憎しみを持っていたのだ。
それを誰かが利用したようだが、その者にとって異世界への洞窟を出現させることにどんなメリットがあるのか?
それが、まだわからなかった。
それに、ユークレイスが見せてくれたとはいえ、彼自身が黒幕であるなら、いくらでも真実をねじ曲げて送ることは出来るし、他の者ならこうなる事を予測して始めから自分の立場は明かさないようにするはずなのだ。
トルマが口を開いた。
「秘密の部屋をどうにか探ることが出来ても、どうやって封印を解いたのだろう。
ある程度の魔人が何人か集まれば、出来ないことは無いかもしれないが、そんなことをしていたらすぐにわかるだろうし・・・
そこが謎ですね。」
トルマの言う通りだった。ある程度以上の魔力の集中があれば、同じ城にいる私が気づかないわけないのだ。
それは、1人の強力な魔人が行っても同じなのだ。
そこをかい潜る事がどうやって出来るのか。
それがわかれば犯人が見えてくるのかもしれない。
幹部の誰かと決めてかかるのは、まだ早いのかも知れない。
「まあ、なんであれ洞窟の封印を解いたものを探したいのと、今後の人間がいる異世界への関わりについてみんなの意見を聞かせて欲しいのだよ。
昔のことではあるが、人間に良いイメージを持っていないものもいるだろう。
この500年、関わりを絶ってきた。
これを機にまた共存を目指すか、それとも洞窟を封印して今までと同じように隔絶するか。
あとは・・・このクオーツの考えのように人間を支配する立場となるか。
まあ、これは戦争を起こすということになるので、多かれ少なかれダメージは出るだろう。
このクオーツを見ると簡単にはいかないだろうがね。」
うずくまっているクオーツを、もう連れて行くように指示を出した。
わたしの話を聞くと、みんなが静まり返ったのだ。
「ブラック様はどうお考えなのですか?」
ネフライトが真剣な顔で話してきた。
「私は正直、昔から人間を観察することが好きなのだよ。
私たちとは違う考えをしてるところが、見てて面白いからね。
こっちに移り住んでからは、退屈なことばかりだしね。
まあ、こちらの世界と向こうの世界がスムーズに行き来できる共存関係が1番いいかと思うよ。
今更、向こうを攻めて魔人の管理下に置きたいとは思わないよ。
そんなのは、つまらないからね。
・・・ただ、以前のように人間の中に魔人討伐思想があるようだと、これも難しいだろうね。
そのために、異世界への移住という選択をしたわけだからね。
別に戦いに敗れた訳でも無いのに、半分私のワガママで移住したようなものだからね。」
「それは、みんなわかっていてブラックに従ったのよ。
ここにいる者でその事に遺恨を残しているものはいないわ。
魔人は強い者に従うもの。
そして今、王としての役目をちゃんと果たしているのだから。」
ジルコンがそう言ってくれると少し心がホッとしたのだ。
そう、幹部全員は私とハナの事情を知っているのだ。
みんなも同じ気持ちでいてくれるのならば、犯人は幹部の誰かでは無いのかも知れない。
では、いったい誰が・・・
みんなには、各自の意見を1週間後の集まりの時までにまとめてくるように頼んだ。
また、封印を解いた可能性がある者も考えてもらうようにした。
しばらくは洞窟の出入り口に強力な結界を張り、簡単には移動出来ないようにしておいた。
もちろん、どちら側からでも結界を破ろうとすれば、すぐに私の知るところになるのだ。
つまり、今は洞窟の中を歩けるのは私だけであるのだ。
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