第22話 魔人の王様
黒髪の魔人は蔑むような目で銀髪の魔人を見た。
「誰の許しを得て、ここに来てるのかな?
勝手にこちらの世界とのつながりを復活させましたね?
どう言うことか、後でしっかりと教えてもらいますからね。」
黒髪の魔人がニヤリとした。
掴んでいた銀髪の魔人の手がみるみる黒ずんで骨と皮だけになったかと思うと、あっという間に黒い粉になったのである。
「グワッ・・・」
銀髪の魔人は自分の消滅した腕を見て、叫びながらうずくまったのだ。
「あ、力が入りすぎましたね。まあ、再生するから問題ないですよね?
ちょっと時間はかかるかもしれませんが。」
黒髪の魔人はニコニコしながら、銀髪の魔人の顔を覗き込んだ。
「も、申し訳ありません・・・しかし、私は人間を許すことは出来ません。
この世界に来る方法を知ったからには・・・。」
うずくまりながらも、その格上の黒髪の魔人を見上げたのだ。
「まあ、君はまだ若いからね。
色々と考えてから発言や行動はしたほうが良いと思うよ。
反対の手も無くなる前にここから消えてくれないかな?」
口調は冷静で穏やかなのだが、銀髪の魔人を見る目はとても冷やかなものだった。
銀髪の魔人はそれ以上は何も言わず、洞窟の奥へとゆっくりと進んだ。
しかし、意を決したのか、振り返って私達の方に向かい再度攻撃をするべく、まだ存在している手のひらをこちらに向けたのだ。
「やはり、人間は消滅するべきであります!」
黒髪の魔人が、はあっとため息をつき、阻止しようと歩き出したのだが、いち早く私は黒いボールを銀髪の魔人に投げつけたのだ。
「みんな、離れて!!」
私が投げたボールがどんなものかは、みんなすぐにわかったため、風上に移動したのだ。
銀髪の魔人に上手くボールがぶつかると、先程の魔獣で見たのと同じ黒煙が上がったのだ。
「何を投げたのだ?
これは魔獣で使ったものなのか?
娘、お前は何者だ?」
黒い煙に包まれながら銀髪の魔人が叫んだのだ。
そして、あっという間にまとわりついた黒煙が体の中に入り込んだのだ。
私はさっきシェルターに戻った時に、兵士に使った薬とは別で、闇の薬を念のため作っておいたのだ。
先程、魔獣で使用したものと少し配合も変えたのだ。
もちろん、体力低下を図るための生薬は入っているのだが、それ以外に今回入れたのは、
チンピ、ハンゲ、ビャクジュツ、ブクリョウ、オウギ、タクシャ、ニンジン、オウバク、ショウキョウ、テンマ、バクガ、カンキョウ
と何種類もの生薬が配合されてある漢方なのだ。
本来これは、めまいや頭痛の改善で使われるのだが、闇の鉱石が配合されているので、今回も逆に転じるはず。
ただ、魔人に効果があるか。
そう思っている間に、銀髪の魔人はみるみる痩せ細り、老人のような形相になったのだ。
そして唸りながらフラつき、立ち上がれない状態となったのだ。
「ほほう。面白い魔法の薬ですね。
まあ、彼は自業自得ですね。
私の忠告を聞かない報いですね。
それにしても、この薬は遠い昔に見たことがある気がしますね。
そして、お嬢さん、その黒髪、黒い瞳、昔の知り合いを思い出しますね。」
そう言って私を見ながら、黒髪の魔人はこちらに歩き出した。
「人間の皆さん、お騒がせいたしました。
私の部下が勝手な行動に出たようで、大変失礼いたしました。
私は魔人の国を治めるブラックと申します。」
その黒髪の魔人は丁寧に挨拶をしたのだ。
「今回のことは私の指示ではありません。
・・・しかし、人間について、よく思ってない者が多いのも事実です。
今後について、よく考えた上で、また参上したいと思います。
申し訳ありませんが、この世界を明け渡してもらう事を希望するかもしれません。
もちろん、私達の世界との共存、もしくは再度隔絶になるかもしれません。
どうなるにせよ、このような卑怯な真似はしない事を私がお約束しましょう。
私を信じていただけるでしょうか?」
ブラックと名乗る黒髪の魔人はとても紳士的な態度であった。
しかし、先程の銀髪の魔人に対する冷酷さなど、安心できる要素はなかった。
「あなたは、500年前の戦い以前からこちらいらした魔人ではありませんか?
王家ではあなたの事を伝えられています。」
オウギ王は兵士たちをかき分け、黒髪の魔人の前まで進んで話し始めた。
さすが、王様だけあり、先程の一連の出来事を見ても、萎縮することはなかったのだ。
他の兵士たちでは、こうはいかないだろう。
黒髪の魔人はオウギ王を見ると、微笑んだのだ。
「なるほど、あの時の人間の王の末裔ですね。
人間は寿命が短いので、私のことなど知る者がいるとは思いませんでしたよ。
光栄ですね。」
そう言った後、私の方に目線を移した。
「・・・それに、もう一人、懐かしい方を思い出させてくれる方。
今度、色々お話を聞かせていただきたいですね。」
ブラックという魔人は少し残念そうな表情をして、部下の銀髪の魔人を引きずりながら、洞窟の中に消えたのである。
その後、洞窟は消滅はしなかったが、途中まで行くと見えない壁で遮られており、それ以上は進むことが出来ない状態になったのだ。
それにしても、あのブラックという魔人の王は、私を見て誰を思い出したのだろうか?
直接会って確かめたくなったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます