【書籍化】淡い輝き、満ちる時
愛世
序章
プロローグ
月明かりに照らされた公園に風が吹いた。春の優しい匂いに混じって、ほんのり冷たい風。風は私の頬を撫で、両手を撫で、掠れた音を耳奥に残して去っていった。
風のいなくなった薄暗い公園。キィーッという甲高い音だけが主張する寂しい公園。
ここへ来る前から、私の心臓はもうずっと忙しない。その時はいつ来るのだろうか。もうすぐ?あと数時間?時計を持っていないから時間が分からない。今日は――今夜は、まだ終わらないよね?
このそわそわする気持ちは期待からなのか。それとも不安からなのか。思わず力が入った、ブランコの鎖を持つ私の小さな手。腰を下ろすブランコも、意図せずデタラメに漕いでしまう。信じるということが、こんなにも震えを伴うことだなんて知らなかった。夜に一人でブランコを楽しむ私の、ついつい笑みが零れる嬉しい発見。
手持ち無沙汰の私は無意味な動きを止めて、思い切りブランコを漕ぐことにした。大きく一回、二回、三回。キィー、キィーッと耳障りな音が公園中に木霊する。
私は待っている。その時が来るのをずっと待っている。
――ううん、違う。私は待っていた。その時が来るのをずっと待っていた。……でも、一体何を?……一体……誰を――?
……分からない。思い出せない。私が待つ理由も、私が味わったはずの様々な感情も、何もかも。
たった一つ。ブランコを揺らす私の瞳に映るもの。あれはそう、どこまでも澄んでいて、どこまでも物悲しげな、堂々と薄闇に浮かぶ大きな満月――。
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