8回目22~第三王子視点~

中は薄暗く、ランタンだけが灯りの頼りだ。武器は禁止され取り上げられている。




 器物を破損するとブザーが鳴り失格となるらしい。




 ふんっ、どうせ見かけ倒しだろう。




 脅かすだけで、危害を加えない。暗闇も演出の一つで、滅多なことはない。




 そう思っていても、体は小刻みに震えていた。




 他の騎士達はおっかなびっくりで、俺の周りを囲み、足取りは重い。未知の体験だが何ともまぁ情けないことか。




 そんな中先頭はゲオルグで、しっかりした足取りで前へ進む。




 やはりゲオルグは頼りになる。




 体感で十分ぐらい歩いた後、声が聞こえた。




 ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ~~~~~~~。




 暗闇の中から大量の声。




「ぎゃぁぁぁ~~~ねずみだ~~~~」




 ネズミ嫌いの騎士の一人が、声を聞いただけで、真っ先にエスケープ扉に向かい脱落した。




「びびるな、幻影だ」




 ゲオルグが一喝する。




 入る前の説明で危険はないと言っていた。




 そうは言っても怖いものは怖い。




 ねずみが大量に移動する姿は気持ち悪いの一言で、思わず俺は目をつむった。




 まさにネズミのビックウェーブ。




 ゲオルグが言ったとおり感触はなく、十秒ほどで過ぎ去っていった。




 周りを見ると二人の騎士が気を失っていた。




 合計三名がこのステージで脱落し残りは四名。




 少し歩くと、小さな池があった。




 ここを通らないと、前に進めない。




 さっさと通ればいいが、二の足を踏む。この池に問題があった。




 池の色はどす黒い赤、中には大量の蛭と人面魚とカエルがいた。




 池の距離は十メートル。ジャンプで飛び越えられない事もないが、鎧が邪魔だし。俺一人取り残されることになる。




 そんなこと俺様が許さない。




 だから誰か一人、俺はおぶって渡らなければならない。




「もう無理です。すいませんマーシュ様」




 騎士一人が脱走した。




「ゲオルグ、頼む」




「あいよマーシュ様」




 俺とゲオルグは繋がっていた。ゲスな思いかもしれないが、心は一つだ。




 ゲオルグに肩車してもらい、恐怖から目を瞑る。




 一歩ずつ進んでいる感覚がある




 一定のリズムで、淀みない。歩きに震えもなく、あっという間に向こう側についた。




 結局、もう一人の騎士も渡れず、とうとう二人だけとなった。








「ゲオルグは誰がいい」




「あー、京夜はマーシュ様に譲りますが他の人たちは譲ってくださいっすよ」




「この好きものめ、まぁいいだろう」




 たわいもない話だが、気分が落ち着く。




 恐怖により感覚が麻痺している。




 今自分がどこら変にいるのかも分からない。




 ゲオルグを信じて歩いている。




 王である父上、王妃である母上、側室の第二王妃と第三王妃。子供は、母上との間には第一王子と俺と第一王女、第二王妃との間には第二王子と第二第三王女、第三王妃との間には第四王子と第四王女。メイドや市井の間にも何人か子供がいるとの話だが王位継承権を持っているのは、今のところ八名。




 継承争いは第一王子、兄上が一歩リードだが、第二王子派に宰相が、第一王女には神子と教皇が、第四王女には軍事大臣と実家の侯爵家がついている、俺には有力な後押しがない。




 兄弟中は最悪と言っていい。兄上と姉上、直属の兄姉である第一王子と第一王女とはたまに遊んでもらっているが、二人の仲は険悪で話そうともしない。第二王妃の子供には、会ったらゴミを見るような目で、無視され。第三王妃の子供とは今日を含め会ったのは数えるほどだ。




 父上とも会うのは年に一回の王家主催のパーティーだけで、ほとんど会わない。




 母上とも週に一回程度で、後はメイドや侍女に任せている




 だからだろうか、誰かに構ってほしかったのかもしれない。




 なんだかぼうっとしてきた。




「大丈夫かマーシュ様」




 ゲオルグの声でぼうっとしていた意識が覚醒する。




「どうしたゲオルグ」




「どうやら次のステージみたいですぜ」




 壁には無数の穴、奥は見えないが不気味だ。




 ここで立ち止まっても仕方がない。




 ここを通ればゴールだと信じたい。




「行くぞゲオルグ」




「へいへい」




 ゲオルグの肩に担いでもらい、俺は目をつぶる、




 幼女の笑い声が聞こえる。




 本能的に恐怖を誘うような声。




「おいおいこりゃやばいぜ」




 見えないが初めてゲオルグが少し震えた。




 大量の足音が聞こえるのは。




「腕をくれー」




「足をくれー」




「頭をくれー」




「体をくれー」




 幼女の声が止み変わりに聞こえたのは地を這うような声。




 横穴から大量の手をばだばたさせる音。




「ねっ、ネルネ」




 ゲオルグはとうとう立ち止まってしまった。




 そして俺は目を開け天井を見てしまった・




「みぃーつけた」




 俺は意識を失った。






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