喧嘩する程仲がいい?
頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
わけがわからない。
どうして?
何が起こっているんだ?
そんな言葉達が頭の中ではんすうされる。
だが、ただ一つ言えることは、目の前にいる少し服のはだけている少女、仮屋 沙友理がそこにいるということだけだった。
そうこうして俺がまごついている間に、彼女は再び口を開いた。
「あの、私、なんでこんなところにいるんですか?誘拐ですか?警察呼びますよ」
そう言いながら彼女は携帯を探すような動作をしている。
だが、無論俺の部屋なのでそんなものあるはずがない。
「いや、だから待て!俺は誘拐なんてしてないし、ましてや何も変な事はしていない。」
「変質者は大体、「やましいことはしていない、」ってはっきり言います。それに、さっき、わ、私にキ、キ、キスしようとしたじゃないですか!」
彼女の頬がほんのりと赤らんでいる。
可愛いなあ…………って落ち着け俺、見惚れてる場合じゃねえだろ。
このままじゃ本当に変態のレッテルをはられてしまう。
なんとか誤解を解かなければ。
それに、まずは幾つか彼女に訊かなきゃいきないことがあるだろう。
「キ、キスしようとしたわけじゃない。ただ、君の顔を確認しようとしただけで、というか訊きたいんだけど、君ってもしかして『仮屋 沙友理』?」
俺は跳ねる心臓を落ち着かせながら彼女に尋ねる。
「そうですが、それが何です?変質者の変態監禁者ならそんなことわかりきってるでしょう」
マジか
やっぱりだ。信じられないが、こんな美人で人形みたいに綺麗な人なんて今まで会ったことないしな。
心臓の鼓動がより高まっているのを感じる。
てか、俺に対する彼女の呼び方が酷くなっていたのは気のせいだろうか。
俺は再び口を開く
「だから、一旦落ち着いて俺の話を聞いてくれ!俺だって今の状況がよくわからないんだよ」
「そんなわけないでしょう!あなたに状況がわからないわけがない!!」
「本当に何もわからないんだ!」
「ふざけていないで、早く家に帰してください!……本当にあなたなんなんですかっ!?」
どうやら、彼女は俺の話に耳を傾けてくれそうにない。
「だから、もうっ!」
このままでは、ずっと同じことを繰り返すだけだ。
何も進展しない今の状況を変えようと俺は、つい
「いいからすこし黙って話を訊けって!!」
と彼女に対して軽く怒鳴るような口調で言ってしまった。
しまったと思い、彼女を見る。
一見、彼女は冷静に振る舞っているように見えるがよく見てみると身体が小刻みに震え、目には涙を浮かべている。
そりゃ起きたら知らない場所にいて、しかも見ず知らずの男と二人っきりときた。
『仮屋 沙友理』も普通の女の子だ。
怖いに決まっている。
何もわかってなかったのは俺のほうじゃないか。
「悪い、急に大声を出して。君だって突然こんな状況になったら怖いはずなのに自分のことしか考えていなかった。本当にごめん。」
頭を下げて謝罪をする俺を見て彼女は暫く驚いていたが、少し安心したのか少し間を開けて
「その、……こっちこそ、ごめんなさい。話をしようとしてくれたのに無視してしまって。」
右手で髪をいじりながらもじもじと俺に言った。
そういえば、彼女が初めて主人公に心を許したときもこんな仕草をしていたのを思い出す。
つまり、初めて彼女は俺に少し心を許してくれたのだ。
というかそう思いたい。
「いいんだよ。突然こんな見ず知らずの男と一緒に知らない部屋で二人っきりになったらそれが当然の反応だよ。それなのに、俺が君の気持ちを考えてなかったから。」
「いいえ、それは私も同じです。あなたの話を全く聞かずに自分のことばかり考えていました。だから、お互い様です」
「……そうだな、お互い様だな」
お互いに向き合ったまま沈黙が流れる。
「「ぷっ」」
なんだかこの光景がおかしくて、ぷっと二人で吹き出して笑いあった。
「アハハッ。何ですか、急に黙って塩らしくなってしまって」
「それは君もだろ。さっきまでやけに高圧的な態度だったのに」
「あれは、初対面のあなたになめられないためです」
俺の前で初めて笑った彼女の顔は、漫画で見たようにダイヤモンドにも勝る輝きを放っていた。
しかしなんでだろう。
まだ、出会ったばかりだというのにこの親近感は。
何故だか俺はとても懐かしく思ったのだった。
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