1、「要はたらい回しで俺のところに来たのね」

本編です。全てのきっかけです。

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1、「要はたらい回しで俺のところに来たのね」



「怜音、就職はどうなんだ」

「ゔ」


 時は遡り、5月。


 食卓に着くや否や、父親が俺に聞いてきた。急所を突かれた俺は思わず変なところから鳴き声が漏れる。


「お父さん、レノちゃん頑張ってるんだから」

「ふん」

 母親が俺を庇うが、父親は鼻を鳴らした。

「……研究職は募集が少ないんだよ」


 食卓を囲んで俺はゴモゴモと話す。言い訳にしか聞こえないだろうが。


 俺はついこの間、大学院を卒業したばかりだ。環境学科のある大学で動物学を学んできた。

 20代の半分以上を大学につぎ込んで、いざ研究所に就職!昔からの夢だった動物の研究者になるんだ!


 ……と思ってた時期が俺にもありました。


 欠員が出ないと原則募集をしない研究職の求人は、就職氷河期も相まって今年は極端に少なかった。色んな職を吟味したがイマイチハマらず、結果この有様だ。


 院卒で無職。

 日本も終わりである。


 ただ、そんな言い訳が通用するような父親ではなかった。

 この人はプロセス全無視の、結果しか見ないタイプの人だ。社会人として仕事が出来、院までそっくり学費を払ってくれるくらい稼いでいる点は尊敬しているが。


 ただ俺とは全く馬が合わない。苦手だ。

「毎日求人チェックしてるから。大丈夫だよ」

「その大丈夫も、今回ばかりは信用ならんな」


 夕食を済ませた俺は自室へ逃げてきた。


「あーもう勘弁してくれよ……俺だって就職したいさ……」


 ベッドに腰かけると、姿見に写った自分が視界に入った。

 ボサボサに跳ね、センター分けの伸びた前髪は目にかかる。これまた伸びた汚い髭、ヨレヨレの部屋着。青白くヒョロい体。


 無職となっては浮浪者感に拍車がかかる。


「やべぇなぁ、もうとりあえずなんでもいいから就職しなきゃなのかなぁ。

 俺が項垂れていると、スマホが通知を知らせた。開いてみると、大学院でお世話になった教授からのメールを受信している。


「柏田先生……なんだろ」


 俺は気になってメールを開いた。題名を読んで俺は驚愕する。


「就職の提案……!? マジで!?」

 内容を要約するとこうだ。


 国立の研究所で新しいジャンルのラボが設立されている。まだ一般に公言しておらず、普通の求人には載らないそうだ。


 ちょうど今、生物学者を招き入れたいらしく、柏田先生のところに声がかかったらしい。しかし柏田先生は歳なので、俺のところにその話を回した、ということだ。


「要はたらい回しで俺のところに来たのね」


 その分面倒だったり危険が伴うのだろう。柏田先生は自分で歳だと書いているが、あの人まだ40代前半のはずだ。怪しい。


 メールの最後には、その研究所のURLが貼られていた。

 そこを開くと、立派なサイトが表示される。


 アストロバイオロジー研究センター。聞いたことはあるが、求人は出していないはずだ。

「まぁ物は試しか、説明だけでも聞いてみよう」


 俺は柏田先生に、興味ありの旨を記したメールを返信した。




次回「それって、異世界転生ですよね!?」

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