第3節

 突如として背後から聞こえた声にアンナは驚き尻餅をく。


「いや、そんなにビビらなくても…」

「で…良いのか?」

「まあ、良いんじゃない?」

「良いんですか?師匠」

「うん。そろそろ、客を取ってもらおうと思ってたし。ま、そいつなら大丈夫でしょうし」


 マーヤはアンナを起こしながら言う。

 そして、ふとノアの持っているフレームを見て微笑ほほえむ。


「?どうした」

「いえ、なんか感慨かんがい深くなっちゃって」

「?」

「アンナを弟子にして、もう二年もったのかってね」

「そうですね。二年って早いですね」

「実は僕、二年前に一回あったことあるんだよね、アンナちゃんに」

「え?」

「当の本人は覚えてないらしいわよ」

「ま、仕方ないでしょ。当時は通りすがりのお人好ひとよしくらいにしか思ってなかっただろうし」

「そうね」

「?」


 アンナはうでを組んで考えて突然、声を上げる。


「もしかして、私を師匠のところまで連れてきてくれた親切なお兄さんですか!?」

「そうそう。あの時は小っちゃかったよね」

「アンタが子供を連れてきた時には驚いて思わず工具で腕をなぐったわよ」

「行動がヤバいよなぁ…」

「ですね…」


 アンナは苦笑交じりにノアに共感する。

 そして、思い出話に花を咲かせようとした、まさにその時、店舗てんぽ側から爆発音が聞こえる。

 三人は大急ぎで店舗側に向かった。

 そして、そこで見たのは倒れている見目麗みめうるわしい貴族令嬢きぞくれいじょうと思しき少女だった。マーヤは貴族令嬢に応急手当をほどこし、二階の客間のベッドに運ぶ。

 ノアはその間に爆発を引き起こした張本人を追っていた。

 しかし――


「逃げられたか…」


 ノアはいつも通りの喧騒に包まれた市場の方を一瞥いちべつし、マーヤの店へと戻る。店に戻るとアンナが壊れたかべを魔術で直していた。


「手伝うよ」

「お願いします。粉々になってるのが多くて…」


 ノアは復元魔術レストマジックで次々に壊れた壁を直していく。

 数分も経てば粉々に砕け散っていた煉瓦造レンガづくりの壁は元通りになっていた。

 そして、マーヤが一階へと降りてくる。


「なんだったのかしら…」

「犯人には逃げられたから真相は闇の中だが…」

「まあ、予想はできますよね」

「ええ。大方、あの令嬢を狙った犯行でしょうね」

「取り敢えず、起きるまで待つか」

「そうね。アンナは続き、終わらせなさいよ」

「分かりました」

「僕はこの子を仮フレームに入れてくる」

「ああ、行ってらっしゃい」


 ノアはそう言って鉱石ランプ付きの仮フレームを持って店へと戻る。

 店の中には作業台と数個の魂灯カンテラが天井からぶら下がっており神秘的しんぴてきな光景を生み出していた。

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