第14話 猫と先輩
「えっ、猫飼ってたんですか?」
知らなかった。あの再会から季節は5月の終わり、先輩とは何度もランチや放課後に話したり、連休でキャンプなどもしたが、今日まで猫の話題は無かった。
一緒に来たコンビニで、猫缶を手に持っていた先輩に僕は尋ねた。
「あ…言ってなかったか。最近家に来たんだ」
「写真とか、あったら見せて欲しいです!」
猫は好きだ。本物に触ったことはほとんど無いが、先輩が飼っているのならば写真といわず、ぜひ直に会ってみたいものだ。
会計をすませイートインに座ると、先輩は携帯の画面を見せてくれた。青い目と灰色の毛の子猫だ。
「かわいい…!ロシアンブルーですか?」
「どうだろう?野良だったから分からないな」
「野良猫を保護したんですね。どういう出会いだったんですか?」
「……ちょっと怪我してて。病院に連れてった。
水曜まで入院してたんだ。オレが引き取ったけど、飼いきれるかどうか」
先輩は僕といいこの子猫といい、ピンチのときに駆けつけてくれる優しい人だ。
おそらく初めてのペットに不安気な先輩の助けになりたい。そしてこの猫にぜひ会いたい。僕は前のめりで提案した。
「先輩の家に遊びに行きたいです!猫を飼うために必要なもの色々揃えましょう」
先輩は少し考えているようだった。以前、家に行きたいとお願いした時はやんわりと断られてしまっていたのだ。一人暮らしと聞いたが、何か気にする事があるのだろうか。
「……わかった。じゃあ土曜日に正門前で」
「ありがとうございます!」
そして土曜日、空は少し暑いくらいの快晴で、海沿いの道は気持ちよかった。だというのに、薄暗く湿った地下道を通り、先輩の家の周辺に着くと空気は変わっていた。
「ここに一人暮らしって、大丈夫なんですか…?」
この2階建てアパートは築何年なんだろう。塗り直すべき時を15年は過ぎていそうな壁には、黒い染みが雨水の跡にできている。水はけが悪いのか、劣化したコンクリートには
「今の所は問題ないかな。昼間は。でもマサキにはおすすめできない」
「え、ええ…あまり遅くならないうちに帰ります…」
夜間は保証できないのか…。怖くなってきたので早く中に入りたい。先輩の部屋は一階の角だった。
「猫だ…!!」
子猫のふわふわとした灰色の毛に、嫌がられないようそっと手を伸ばす。人見知りはしないのか、おとなしく
「あっ、名前!名前はなんていうんですか?」
「うーん、まだそんなに真剣に考えて無くて。
ニーニー鳴いてるからニーちゃんって呼んでるけど、これじゃ雑だよな」
「いいじゃないですか。ね、ニーちゃん」
子猫はニーと鳴いて答えた。
部屋に上がり、ワンルームの中を見渡す。壁や水周りに昭和な古さを感じるが、物が少なく綺麗に片付いている。
「歩き方、ぎこちないですね」
「後ろ足は後遺症が残った。医者
「そうですか……」
どれほど酷い怪我を負ったのか。生きていてくれてよかった。
こっちを向いた子猫と目が合うと、後ろの片足を引きずりながら、僕の足元に近寄ってくる。僕はそっと抱きかかえてみた。腕の中に感じる小さなぬくもり。大きくてキラキラとした瞳が僕を見つめている。
「頑張ったね、ニーちゃん。
お前も先輩に助けられたんだね」
僕もだよ。優しい人がご主人になってくれてよかったね。
子猫は返事に小さく鳴き、先輩のほうを向いた。
先輩は押し
すると子猫は僕の手から抜け出そうと動いた。落としたら危ない。うまく着地できるか分からないのだ。
「そっちにいきたいのか?」
先輩のいる方に抜けようとしている。きっとそうだ。
僕は先輩に子猫を手渡した。思った通りだ。受け取った先輩の腕の中で気持ちよさそうにしている。
「やっぱり。ちゃんと先輩のことが好きなんですよ。この子も」
だからそんな悲しい顔をしなくてもいいのに。
先輩は泣きそうな顔で、何かに遠慮するように、そっと子猫を抱えていた。
「よし、じゃあニーちゃんのために色々揃えにいきましょう!
美味しいもの食べて、もっと元気になろうね」
子猫は幸せそうに、ニーと鳴いた。いい返事だ。
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