二章

第13話 暗転・森の泉にて


 少女が目を覚ましたのは水のふちの中心だった。


 あたりはきりがかかった見知らぬ森、暗くはないが明るくもない。こしまでつかっている水も冷たくはない。むしろ少し暖かい。


 ぼんやりとした頭で記憶を辿たどる。さっきまで大雨が降っていて、私はたしか、河原の子猫が気になって見に行った。

 いつもお母さん猫と寝てる岩陰まで水がきていて、子猫は取り残されていて、私は迫る水から助けようとして……

 

 あの川の先にこんな場所があったんだろうか。それなら水が流れ込んでいそうなものだけど、水面は止まってる。私が動いた所にだけ輪ができた。


 とにかく、岸に上がろう。

 霧の向こうに建物が見える。近づいたら分かった。これは神社だ。小さいけど綺麗だなって、上がって見ていこうって、そう思っているのに私は水から出られなかった。


 

 だって、岸に立つための足がもうないんだから。



 どうして気が付かなかったんだろう?水はこんなに透明なのに、私の足が見えないことに。泳いでないなら、ここに立ってるはずなのに、水の底が見えないことに。


 私の体はどんどん無くなって、水に溶けていった。なぜか私の頭はその光景を他人事のように静かに受け入れていた。

 今さら怖がっても仕方ないくらい、私は死んじゃったんだと思う。


「ばかなことしたなぁ…」


 お母さんは危ないから家から出るなと言っていたのに。約束を破ったからもう二度と帰れなくなってしまった。ごめんなさい。

 それに結局、子猫に手は届かなかった。


 私はついに頭まで水に沈んで、ゆらぐ水面の光がどんどん遠く、暗くなっていく。

 もしかしたら「私」はもう溶けて残っていないのかもしれない。


 その時、不思議な声を聞いた。


 

『君は悪くない』



 そうかな。私がばかだったからだと思うけど。


『君のせいでこうなったんじゃない。

 それに、君のおかげで大勢の人が助かることになる』


 じゃあ、あの子猫も?

 あのこのために、がんばったの


『それは………、ああ。助ける』

 なら、よかった。


 あ  なた は 、か み さ   ま  ?


 




『………そんないいものじゃない』







 

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