再定義
歩きながらもずっと先ほどの話がフラッシュバックする。
男性は二十歳になると、全員が生殖行為を行う必要がある。なぜなら、一番体力と魔力のピークとなるのがその年齢だからだ。
そして、その対象は男性全員。
つまり、魔力が少ないスレイブレベルの多くの人はここで人生から脱落する。それを拒否することもできない。なぜなら、男性のほうが数は少ないから。
そして、それは自分も例外ではない。そして自分の魔力の成長具合についてもうすうす感じている。明らかに他の人よりも少なすぎると。
つまり……自分は二十歳になったら社会制度によって死ぬということ。
もし自分が馬鹿ならあの男性職員の言ったことをふざけるな、と言って奮起できた。そんな事情なんか知らぬ。俺は魔力が少なくとも強くなって見せる、と言えた。
あるいは、こんな社会制度なんてくそくらえとか言っていたかもしれない。俺が壊してやる、ぐらいのことは言っていただろう。
だが、中途半端に賢いせいで事情が理解できるのだ。そして、効率が良いということも。もしスレイブの男性が生殖行為をしなければ、人類は減少待ったなし。なんせ男性の半分ほどを占めるのだ。
そんな事情もあるから、村では女性が絶対だという思考とカッコいい女性に目を付けられることが良いことだという価値観が植え付けられた。
こんなことを知りたくなかったのだが。
じゃあ諦めるのか。残念ながら、そこまで賢くもなければ自己犠牲精神にあふれているわけでもない。
生きたいに決まっている。誰が好き好んで死にたいというのか。
そうなると最初の問いに戻る。
もしアバトワールに所属できれば、魔力を増やすことができるかもしれない。
あるいは結果次第では特例がもらえるかもしれない。
だが、自分の魔力ではどんなに頑張ってもEランクが限界。そんな魔力では生殖に耐えるだけの魔力を保有できず、特例も認められるはずもない。
どうすればよいのか。
いっそのこと、どっちかに偏っていれば、なんて思ってしまった。そうすればこの問いに関して、すぐ答えが出た。賢いことは諸刃の剣だ。
自分を傷つけることも賢いからこそできることだ。
そんな意味があるのかないのかわからないせめぎあい。それを心の中で行いながら歩いていくと、壁にぶつかった。壁にしては柔らかい感触。
新しい材質なのか、なんて見当違いの方向に考えを発展させると壁から声が聞こえてきた。中々甲高く、そして大きな声。
「聞こえているのかしら!? あなた!?」
そんな響き渡るような声にようやくティアは意識を現世に取り戻した。目の前に見えるは三人の少女。尻もちをついていることもあるが、自分よりも大きく見えてしまった。
「人様にぶつかっておいて、何の謝罪もないのかしら?」
「そうですよ! 本当でしたら罰が出てもおかしくないのだからね!」
「~~~~~!」
真ん中の女性が何か言うと、その周りにいる二人の女性がワーワーと付け足すようなことを言う。正直面倒くさい、なんて思っていたがぶつかったのはこちら。
そこは謝るのが筋だろうと思ったため、その場で立ち頭を下げて謝罪する。
「ぶつかってしまってごめんなさい」
その様子に溜飲が下がったのか、すぐ三人はその場から立ち去ろうとする。だが、ふとティアのことをじろじろ見始めていた。何か不審なものを見るような目。
なんだか薄気味悪くなり、その場から立ち去ろうとしたティア。
だが、その瞬間右手の手首がつかまれる。その方向を振り向くと
「ねえ、あなた。フードを被ったままって失礼じゃない?」
「そうよ、ちゃんとフードを取って謝ったら?」
「そうだそうだ!」
なまじ正論を言われて黙ってしまうティア。確かにフードをつけたまま謝るというのは非礼だ。そのため本来はそれを取るべきだろう。
だが、メルクとの約束がある。
このフードを取ってはいけないと。
その理由を最初はわからなかったが、今ではわかる。
下手に男性だとばれては絶対に面倒ごとになるからだ。何かわかりやすい権力や後ろ盾の有る男性ならあまり問題にはならない。
だが、ティアはそんなものを持っていない。
なんせ、目の前の子供がメルクの名前を知っているか疑問である。ついでに言えば、彼女たちの衣装や喋り方から察するにおそらく身分が高い人の子供。そういう状況下でメルクが後ろ盾になるとは考えにくい。
そこまでティアは考えたわけではないが、少なくともこの状況を打開するには自分でどうにかするしかないと考えた。そのため、誠心誠意頭を下げる。
「すみません、このフードだけはどうしても外せないのです。ぶつかったことは謝ります。だからどうか」
……しかし、人というのは隠されれば隠されるほど気になるわけだ。
つまりフードの中身が気になってしょうがない。そのため、真ん中にいた少女は他二人に銘じてティアの手を抑える。
それに必死に抵抗するが、バングルのせいで力が出ない。周りの子は明らかにバングルをつけていない。そのせいで全く身動きが取れなかった。そんな暴れるティアの元へ少女が近づき、フードを外してしまった。
「……!? あなた、男性だったのね!」
そんな驚きの表情を浮かべる三人。
見られた、と思って必死に顔を隠そうと腕のほうへうずめようとする。
しかし真ん中の少女がティアの頬をつかみ、正面へと戻した。
「……ふーん、あなた、結構かわいい顔をしているのね。決めたわ、私、こいつを連れて帰るわ」
いきなり何を言っているんだこいつ、と思考がショートする。
連れて帰るって、そんなペットじゃあるまいしできるわけないと。しかし、二人ははい、と返事をしてティアを引っ張り始めた。
「最近もっと男の子が欲しいところだったから収穫ね。たっぷり可愛がってあげるわ」
「イア様! 私たちにも触らせてくださいね」
「そうですよー!」
最初は冗談だと思っていたティアだったが、彼女たちの言動がそれを裏切っている。もっと抵抗しようと暴れまわるが、魔力なしではできることが限られていた。
そのためずるずると引き摺られるティアだったが、そんなときに横から声がかかった。
「待ちなさい! そいつは私の仲間よ。そいつを置いていきなさい」
サラが急いで彼女たちの前に現れた。
その白い額には大粒の汗があり、黒い瞳は三人の少女たちをにらんでいる。真ん中の少女が高笑いしながら、サラへ相対する。
「あらあら、レディ・サラ。何か御用かしら? 先に私たちが見つけたので、お茶会にも招待しようと思っていたのですが」
「ふざけないで。あんたがつかんでいるそいつは私の仲間なの。だから、さっさと手を放せって言っている。それに嫌がっているでしょ」
そう振られたため、ティアは必至でうなずいていた。
いくらなんでもこんな形で誘拐されるのは嫌、ということもあり首を大きくふっている。
そんな姿にため息をつくイアと呼ばれた少女。
「はぁ……伯爵令嬢ともあろう方が、こんなみすぼらしい男性を仲間だなんて……お家に傷がつきますわよ?」
「うるさい、ミス・ソークがそういう行為を目の前にする方がむしろ傷はつくと思うけど?」
にらみ合う二人。そんな二人の元へギャラリーが集まってきた。
子供たちの争いということで大人たちは黙ってみていたが、捕まっている少年の姿を見て動揺した雰囲気が広がっていった。
そんなときに動きがあった。
ティアだ。
彼が右手をつかんでいる少女を全力で蹴った。
当然ある程度は魔法で強化しているため、あまり痛みはないがその衝撃で右手を離してしまう。
そして空いた右手を使い、左手をつかんでいる少女に向けて全力で腕を殴った。すでに先生との訓練のおかげで、女性であっても全力で殴れるように指導されている。それに、あれだけ怖い目に合えば殴ることに躊躇もしなくなる。
そのおかげで両手が空いたティアは急いでサラの元へ走った。一拍遅れて気づいたイアはそれを追いかけるように走る。周りの観客は全員そんな光景を黙ってみていた。
サラに追いつくと、彼女も走り始める。
急いでこの場から逃げるためだ。ここはソーク領の魔法師ギルド。問題を起こしたとなれば、確実に悪者にされかねない。権力とはそういうものだ。
そんな二人を追い始める取り巻き二人とイア。
だが、追われる側と追う側で決定的な差があった。それが魔法を使用できるか否か。
そのせいで多少距離を開けても一瞬で追いつかれる。
後ろを見て、ティアがこのままだと捕まるなんて思ったとき。
取り巻き二人が何かにぶつかった。
違う、二人の前に何かができている。その事実に足を止める五人。
「騒がしいぞ、お前ら」
そんな低く響き渡るような声が聞こえてきた。
そこに現れたのは一言で言えば黒づくめの男だ。
黒いコートに黒い帽子、黒いズボンに黒い靴。目元は黒髪で隠されているが、髪の間から強い視線を発する。そんな男性が三人の前に現れた。
「何ですの、貴方!? 私が誰かと知っての狼藉で?」
「お前が誰だかは知らんが、騒がしかったからやめさせた。それが何か?」
「はっ、なら教えて差し上げますわ。ここソーク・ポリス領の領主が娘、イア・ソークですわ。さ、今なら無礼を詫びる時間を差し上げましょう」
そんなことを言う彼女。
だが黒づくめの男は全く動じず、それがなんだといわんばかりの態度だった。
というか実際に言った。
「あ、あんた……侮辱罪にしてやりましょうか!?」
「イ、イア様! この人はまずいです! この人は西部Aランク一位のオーニクスさんです。速く謝って逃げましょう」
おつきの少女がイアに耳打ちする。彼の正体をようやく知った彼女は真っ青な顔になり彼へ頭を下げようとするが、それを手で辞めさせる。
まるで犬を追い払うかのような動作だ。
「そんなもの要らんから、こいつらに謝ってさっさと失せろ」
「はい、すみませんでしたー!」
そして三人はトンずらしていった。ため息をつきながらも、目の前の男性がティアたちの方を向く。そういえば、自分たちも騒がしくした元凶だ。というか原因だ。なんて思ったティアは急いで頭を下げて謝罪する。
そんな頭を下げたティアに手を置き、ゆっくりと撫でる。
先ほどの雰囲気とは全く異なり、硬かった印象が多少和らいでいる。
「災難だったな、二人とも。とりあえず君はフードを被ると良い」
「……ふぅ、やっと仕事が、あ」
そんなところに用事を終わらせたメルクが現れた。
アバトワールのロビーはようやく静まった。
四人はあるVIPルームに集まっていた。
ティアの身に起きたこれまでの災難を説明させるためである。
ようやく落ち着いたティアはぽつりぽつりと話し始める。
「怖い思いをさせてしまって済まない。本当ならこんなことになる前に助けるべきだったが、発見が遅れてしまって申し訳ない」
二人の大人がティアへ大きく頭を下げて謝罪する。正直な話、居心地が悪くて仕方ないティアだった。なんせ、片方は自分を助けてくれたヒーローであり、もう片方は教えを乞うている存在。だから事情を話してほしいというと、メルクが簡潔に話し始めた。
アバトワールも経営面が楽ではなく、貴族から援助を受けているらしい。そういう影響もあって、そのお得意様の子供に対して強く言えないそうだ。今回、他の人が助けられなかった理由はそこにある。
ティアとしてもそれを強く責めることはできなかった。
なんせ、似たような経験がある以上ほかの人を責めてはブーメランになるからだ。とはいえ、そんなシュンとした態度を取られるとメルクとしても申し訳ない気持ちになる。
「お詫びと言っては何ですが、今回のランク戦をこのVIPルームで見てほしいと思っています」
魔法師にはE~Aのランクがある。E、D、Cの場合はテストでも得られる認定だが、それ以上になると違う形式になる。より具体的には格上と闘って資格を示さないといけない。それがランク戦だ。
そして、今日がそのランク戦の日。一般にも公開され、アバトワールという組織の実力を一般の人にも公開する日なのだ。会場に一般人も多く座っており、一種の大会のような感じになっている。
オーニクスが二人にあいさつをすると、部屋から出て行く。それに疑問を持ったティアが質問すると、メルクは
「オーニクスさんは、Aランクパーティの中で1位の方です。つまり、魔法師ギルドにおいて最強の戦力の一人ですよ」
その説明に再びティアは大声で叫ぶのであった。
何で男性なのに一位なのか、とかどうやって一位にとか聞きたいことが多くあったティアだったが、戦闘が始まるということで座らされた。
フィールドには四人の女性と黒づくめの男性……つまりオーニクスがいる。しかし、四人の女性のほうは全員フィールドのバラバラな位置にいた。どうしてバラバラの位置なのか、ということについてメルクに聞くと
「それは……難しいから合格したら教えてあげます。とりあえず、戦いを見ていなさい」
しばらくフィールドを見ていると、すぐに動きが発生した。オーニクスがまだ見えていないはずの敵めがけて進撃を始めた。その女性については彼に気づいていない。
そして、あっという間に百メートルも離れた女性へ近づくと剣を一閃。
女性の身体を横に切り裂いた。
その瞬間、血が出てくる、と思って目をつぶろうとする。しかし、先生から目を開けていなさいと言われたため薄目を開ける。
すると、その女性の断面図は肉体ではなく何か人形のようなものだった。そして、切れた瞬間に女性がフィールドから消えた。
「このフィールドは、現実世界と違う空間になっています。各々自分を模した人形のようなものを魔法で作ったのちに、そのフィールド内で戦うといえばわかりやすいですかね」
だからこそ女性が切れても血が出てくることなく、その場から消えるというだけで済む。異世界知識でVRみたいなもの、という感じで納得することにした。こういう時は便利である。
女性は一人切られたが、そのおかげかほかの女性は集まることができた。
これでオーニクスは三対一を強いられる状況となってしまう。だが、彼はそれを知っているのか知らないのか不明だが、再び女性たちの元へ突撃する。
そうしてたどり着くは広場。ここが決戦の場。
女性のうち二人が掌から魔法弾を用意する。そして、戦いが始まった。
オーニクスが動き出すと、女性三人も一斉に動き出す。魔法弾を用意した女性たちは後ろへ下がり、剣を持った女性は位置取りを調整しているかのように見えた。
そして後ろ二人の魔法弾が撃ちだされる。その数も、速さも、サラの物よりもずっと高性能。しかし身体を傾けることで避け、従容と、しかし素早く剣の女性に近づく。
その中で一人しか魔法弾を撃たず、もう一人は別の場所へ移動を始めた。その姿が隠れてしまい、観客席から見えない。
それにかまわず、彼はその人へたどり着いた。袈裟切りの凶刃が彼女へ襲い掛かる。
とっさに彼女は自身の剣を当てながら真横へ動く。真っ向から勝負せず横向きにそらしたおかげで何とか当たらずに済んだが、まだ攻撃は終わっていない。
だがその瞬間、彼は後ろへ後退を始める。なぜなら、後ろからの弾丸が迫ってきたから。
こうして再び距離を空けることに成功した女性たち。
今度は女性たちが仕掛ける。
魔法弾を撃ちながら剣の女性が彼へ攻撃する。
その魔法弾の数は先ほどよりも少ない。
それを適当に避けながら、目の前に迫る女性の剣を受ける。何回もつばぜり合いが生じたのちに、オーニクスが急にしゃがんだ。
その瞬間、彼がいたところへ曲がりながら魔法弾が迫っていた。
しかし、それを予期していたのか剣の女性は剣を下に振り下ろしている。
タイミングの有った連携攻撃。
それを避けるため、無理やり後ろへ下がる。
だが、後ろに下がった瞬間ジャンプする。
下がった場所に向けて魔法弾が発射されており、その対処が間に合わなかったからだ。
そして浮いてしまったオーニクスへ向けて、四方八方の魔法弾が彼に迫る。いつの間にか消えていたもう一人が現れ、彼めがけて魔法弾を撃っていた。そして彼女がいない場からも魔法弾が炸裂している。
逃げ場も動きようもない。ガードしようにも、全方向に魔法弾を防ぐだけの何かを用意するのは難しい。格上相手にあそこまで計算した動きと、全員で協力してあれほどの弾幕を用意したことに感嘆の念を漏らしたその時。
剣を持ちながら回転を始めた。何をやっているんだ、と思ったその瞬間。彼から嵐が誕生した。そして、彼の持つ剣が光始め方々へと飛んでいく。
回転はその場に滞在したが、何よりも恐ろしいのはその嵐からやってくる刃。弾丸はおろか周りにいた女性たちも巻き込み、そして切り刻んでしまった。
回転を終わると、彼の半径十数メートルはただの野原が誕生していた。
こうしてランク戦は終了した。
「今のがランク戦です。いやー惜しかったですね。作戦通り彼を空中に浮かせ、そこに魔法弾で仕留めるという形は良かったですが、最後は力業で持っていかれました」
メルクが二人に講評を話しているが、ティアからするとそんなことどうでもよかった。
男性であるオーニクスが、あんなに爽快な倒し方をしたことに興奮していた。サラはしっかりメモを取っていたが、興奮し続けているティアへコメントを添える。
「彼ですが……ほかの魔法師の方と比べると、魔力は多い方ではありません」
「え、ではどうしてあんな大技を打てたの?」
「溜め、ですね。レベルをためていたというのもあるでしょうし、魔法構成に時間をかけていたためあまり魔法を使っていなかったと思いますよ。きちんと節約すれば、ああいう大技も打てますからね」
魔法を撃つにも構成する時間とそれ相応の魔力が必要となる。彼の場合、戦いながらその魔力をしっかりと使い大技を撃ったというわけだ。
そんなティアの姿を見届けてある程度元気になった、とメルクは思ったのかテーブルをはさんで話始めることにした。話は例のセンシティブな話である。
再び暗い表情になるティアに対し、メルクはサラを立ち上がらせ彼へ向かわせた。するとサラがティアの目の前に近づき彼の頬をつかむ。
「あんた、生意気なのよ!
アバトワールに所属してもEランクにしかなれないとか、に十歳までしか生きられないとか言っているけど、そんな先のことを気にする余裕があるわけ?」
「へ?」
「今あたしたちがやることは何? 先生を倒すことでしょう? あんたの悩みは全部強くなれば解決する。だから、そんな不確定な先のことを悩むくらいなら、今この時について悩みなさい!」
そんな怒り口調で説教したのちに頬から手を放し、再び席に座った。状況の整理が追い付かないティアにメルクが説明を加える。
「ティアが暗い表情をしたことについて、すごーく心配していたのですよ。だからさらに代弁させました。彼女の言う通り、先のことについて悩むぐらいなら私を倒すことについて悩んだらどうです?」
そんな励ましに対して、答えなきゃ……と思うティアだったが、連想されるは不合格という言葉であった。それについて口に出てしまった彼にメルクは予想外のことを告げる。
「ああ、アバトワールは貴方を所属させないという話ですが嘘ですよ」
「は?」
「正しくは『私がティアのことをEランク程度しか伸びしろがない』と判断したら、たとえ試験が合格でも推薦させるつもりはないということです」
それはどう違うんだ、なんて思うティアだったが約一年前の言葉が思い浮かぶ。そもそも、自分を受験させるつもりはなかったと。
それはもしかして―――
「ようやく気付きましたか。私は貴方が将来それ以上の実力を持つと思っているため、指導しているのです。私は情だけで人を指導することはありません。ちゃんと魔法師ギルドに益があると思っているから、貴方を教えているのですよ」
メルクは割と現実的な側面を持つ。最初にティアを拾ったのは情だが、彼に魔法を教えているのは情だけではない。
きちんと利をもたらすからという理由だ。
「確かに今のまま進んでも貴方の魔力はEランクが精々ですが……アバトワールに入ったことで魔力が急激に伸びたという人もいます。あのオーニクスさんもそうですよ。
あなたがもういいです、というなら止めはしませんが、まだ諦めないというなら目指したらどうですか?」
……そこまで言われて、今まで自分は何をあほなことに悩んでいたのだろうか、なんて思ってしまった。
あれだけ回り道をして、結局戻ったのは先生を倒すこと。
悩んだ時間が無駄、と言われればそれまで。
だが、今回のことで多くのことを学べた。そのうえで……強くなりたいと思えた。それだけでも、収穫物だ。
そんな自然体のまま二人にお礼を言うことができた。
メルクはここまで言わせたのだから、強くならないと承知しないと笑顔で言っていた。割と本気そうで怖い。
サラはいつも通りふんと鼻を鳴らすだけだった。何かお礼をしたい、というが彼女はそれを固辞した。
「別に……イアの借りを返しただけだし」
「え?」
「何でもないわよ。それよりも早く帰りましょう」
そういって外に出ようとするサラ。だが、もう一つ彼女に言いたいことがあった。それは・……
「ねえ、サラさん。俺とペアを組みませんか!?」
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