第一回・中編
サリガに言われてウーバは気付いた。確かにパーティーの金の管理はアリクに任せていた。アリクが出て行った後のことについては全く考えていなかった。パーティーの金は宿に預けた金庫の中で、金庫の鍵もアリクが持っていた。
……アリクが持っていたままだったのだ。
「し、しまったあああああぁぁぁぁぁ!!」
「え、ちょ!?」
「な、何よ!?」
「うえええ!?」
サリガに言われてウーバはやっと気付いた。アリクは鍵を持ったままパーティーから抜けた。それはつまりパーティーの金庫の金をいつでも持ち出せてしまえることを意味する。あの時、出て行って向かった先が金庫の元ならば、パーティーの金を持っていかれている可能性が高い。
「くそぉ! アリクの奴に金庫の鍵を持たせたまま追放しちまった!」
「ええ!? 何だって!」
「そ、そんな!?」
「え? え?」
サリガとメスルは瞬時に理解した。ウーバがどれだけ考え無しに追放してしまったのか。そして、それがどれだけ重大な失敗なのかも。
「と、とりあえずアリクを探せ! 鍵を取り戻すんだぁぁぁぁぁ!!」
ある程度回復して集まった『強欲の翼』たちは追放した仲間を手分けして探すことになった。
◇
「くそ! ここにはいねえか! やっぱり鍵もねえ!」
ウーバは「もしかしたら……」と思って宿に戻って金庫の鍵がないか探してみたがそんなものはなかった。これでは宿の金庫の中身が無事か分からない。金庫はウーバが勝った市販のもので、何かあった時のために借りている宿の部屋に置いている。
「ちぃぃぃ! こんなことなら拠点となる家を早めに買えばよかった!」
自己顕示欲の強い性格だったウーバは高レベル冒険者になったものだから拠点を金で買いたいと思っていた。だが、それはSランクになってからだとアリク、それにメスルに言われて我慢していた。
早めに家を買っておけばこんなことにならなかったと後悔しているがもう遅かった。
「くそ! 町中を探し回るしかねえ! 最悪、ギルドにクエストとして依頼してやる!」
ウーバは宿を出て行った。
◇
「アリクはいないかぁ!」
「「「「「っっっ!!!???」」」」」
ウーバは治療院にやってきた。ここは多くの冒険者が怪我を回復したり、病気で通院したりする場所だった。もちろん、『強欲の翼』のメンバーもよく利用する場所だった。アリクもこの治療院に通っていた。
「おい、そこの女! アリクはいないか!?」
「ひっ!?」
ウーバは治療院の受付嬢に荒げた声を掛けた。ウーバの様子に怯えた受付嬢は震えた声で答える。
「ア、アリクさんは…右腕に傷跡が残ってしまいましたが…それが、何か……?」
「そういうことじゃねえよ! 俺が効きたいのはここに居るのかって聞いてんだ!」
「ひいっ!」
ウーバは怒りに任せて吠えるように言葉を吐く。受付嬢は更に怯えてしまった。だがここで、思わぬ助太刀が入る。ウーバの方を誰かが力強く掴んで声を掛けた。
「おい、お前さんよお。ここがどこか分かってんのか?」
「ああ!? 何だお前、は……」
ウーバが振り返ると黒い髪をオールバックにした大男がいるではないか。しかも強面でとても強そうな外見をしている。冒険者特有の圧をかなり感じる。
(や、ヤバい。こいつ、ただものじゃねえ……)
「俺は剣士のダンテってもんだ。ここにはつい最近やってきたが、お前、こんな場所で受付の嬢ちゃんに悪さしていいと思ってんのか? 誰も味方してくれなくなるぞ? 分かってんのか、本当によお?」
「う……」
ダンテの凄みに押されるウーバ。言われてみて気づく。周りの誰もが自分を睨んでいる状況になっていることを。流石にこれはマズいことをしたと思った。
「わ、悪かったよ……。俺は、アリクを探してただけで……」
「アリコ?」
「アリクだ!」
ウーバの口にしたアリクの名前を聞いた冒険者の一人がウーバに向かって吐き捨てるように答えた。
「ウーバ! アリクなら昨日退院して出て行ったぞ! お前のようにツケにもせずに金を払ってお礼を言ってな!」
答えたのは魔法拳闘士の少年だった。彼は左腕を骨折しているようだが、そんなことも気にしない雰囲気でウーバに食って掛かる。
「ト、トウゴ……。ちっ、そうかよ。分かった。ここに用はねえ」
「おい待て! お前はツケをまだ払ってないだろ! いつまで払わないつもりだ!」
去ろうとするウーバにトウゴは待ったをかける。それでもウーバは出て行こうとする。追いかけようとしたトウゴだったが、ダンテが止めた。
「ほっときな少年。ああいう奴に何を言っても無駄だ」
「ダンテさん! でも……」
「それにお前さんも声が大きすぎる。ここは治療院だぞ」
「あ……」
ダンテになだめられてトウゴもこれ以上は騒ぎになりかねないと悟った。ここは病人や怪我人が通っているのだ。無や意に騒ぐわけにはいかない。ただ、絡まれていた受付嬢はダンテとトウゴの傍に駆け寄ってお礼を述べた。
「あ、あの、助けてくれてありがとうございます! 助かりました!」
「ああ、いいってことよ!」
「……大したことはしてないさ」
「お礼に入院費をお安くしますね!」
助けた受付嬢にそういわれて二人は思わず顔がほころんだ。
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