【短編】追放した仲間が行方不明!?(第一回・第二回)

mimiaizu

第一回・前編

 凶暴なブラッディ・ウルフの群れに囲まれながら、冒険者パーティー『強欲の翼』のメンバーは息も絶え絶えに武器を構えていた。


 額から流れる血に視界を赤く染めながら、リーダー格の剣士ウーバは苛立たし気に叫ぶ。


「クソッ! なんでこんな雑魚共に苦戦しなくちゃならねぇーんだ!!」

 

「落ち着けウーバ!」

 

 ウーバ同様に激しい傷を負っている盗賊ザリカが膝をつきながら叫ぶ。

 魔法使いメスルはダメージの深刻さから、座り込み迫りくる死の恐怖にガタガタと体を震わせていた。


「……も、もう無駄だわ。私たちここで死ぬのよ……」


 そんなメスルを心配して身を寄せるのは拳闘士カメール。彼もまた怪我をしているが幸いなことにウーバやザリカよりは軽傷だった。


「メ、メスル……!」


 戦意を失っていく仲間たちに、ウーバは顔を歪ませる。挙句にはこの状況を一か月前に追放した男のせいにしようとする始末。


「ア、アリク、そうだ! きっとあいつが原因だ! あいつが俺たちに何かしやがったんだ! だってそうじゃないと、この俺がブラッディ・ウルフなんかに苦戦するはずがねぇだろ!?」


「そんなこと言ってる場合じゃない! 来るぞ!」


 少し前まで談笑しながらでも倒せていたモンスターに殺されかけているウーバの顔には、ビキビキと血管がうかんでいる。

 ダラダラと唾液を垂れ流すブラッディ・ウルフたちは、もうすぐ食べれるであろう獲物を前に舌なめずりをし獰猛さに磨きをかける。

 その姿にウーバが雄叫びを上げ走り出した。


「雑魚モンスターがよぉぉっ!!」


「ウーバ、駄目ぇ!!」


 剣を構えがむしゃらに走り出したウーバの体に、ブラッディ・ウルフの凶牙が食らい付いた。周囲に鮮血が飛び散る。


「ごふっ――」


「いやぁああぁぁぁっ!!」


 虚しく響くメスルの叫び声。





◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇





遡ること1か月前のことだった。


 Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』は、Sランクへの昇格のためにあるクエストを受注した。クエスト内容は大型のサンダードラゴンの討伐だったのだが、本来ならAランク冒険者パーティー『強欲の翼』には敵わない相手だった。


 結果として支援術師アリクが囮役となってパーティー全滅を免れたが、アリクは右腕と右足を負傷し、パーティーのメンバーも怪我を負ってしまった。


 運よく全員が逃げ切れた後は、クエストを断念し、各々の怪我の完治を待って徐々に冒険者稼業を再開するはずだったのだが、ウーバはクエスト失敗の件でアリクを責め立てたのだ。


「アリクには悪いがパーティーを出て行ってもらう。理由は分るよな?」


 どうやらリーダーのウーバは、『強欲の翼』を自分に都合のいいパーティーにしようとしていたようだ。表向きのリーダーはウーバだったが、いつも意見で対立するサブリーダーのアリクは邪魔だったのだ。

 

 この件を好機とみてアリクを追い出してパーティーの実権を握ろうと考えたのだ。更にアリクを追い出して可能な限り資金を確保しようと決めたようだ。


 アリクは囮となったことで誰かが救われたのだから、それ以上のことは求めるつもりはなかったが、あんまりにも不当な通告に内心憤っていた。これが2年間共に冒険してきた仲間達の本性だったのだと思うと悲しかったが、実際信頼がない仲間とこれ以上共に冒険を続けるのは無理があることは理解していた。


「ほう、受け入れてくれるのか。いい心がけだ。理解してくれて助かるよ。なら、さっさと出て行け!」


 こうしてAランク冒険者パーティー『強欲の翼』はアリクという支援術師を失った。これはウーバの独断で誰にも相談したことではなかったのだが、アリクはそれを見抜いたうえで受け入れたことにウーバはこの時気付いていなかった。





 アリクを追放した翌日に、ウーバは仲間全員に責められた。彼らはアリクの追放について何も聞かされていなかったのだ。


「な、何でそんなことをしたんだよ!?」


「そうよ! 四人で冒険をしろっていうの!?」


「何も聞いてないぞ!」


 ウーバは顔をしかめるが、落ち着いて理由を話した。自分勝手で理不尽な理由を。


「あいつはたかが支援術師だぞ? ほんのちょっとの支援術しか使えないような役立たずだ。いても居なくても変わらない。いや、足手まといだ。そうだろ? 実際にこの前のクエストはあいつが足を引っ張ったせいで失敗したんだ。その責任を取らせたのさ。あいつもそれが分かってたから出て行ったよ。だから問題はない」


「「「…………」」」


 ウーバはそういうが本当は違った。三人の仲間は各々考える。


(なんてこと言ってるんだ。本当はお前こそが足を引っ張ったんじゃないか。お前が余計な刺激をしたせいで速攻で居場所がバレて苦戦したんだぞ。しかもアリクは進んで囮になってくれたじゃないか)


(何なのこいつ? 自分が原因で失敗したって分かってないの? 現実逃避のつもり?)


(なんか違う気がする……。いつもアリクは皆のことを考えてくれてた……。と思う)


 どう考えてもウーバの理屈は通らない。そもそも前のクエストの失敗の原因はウーバにある。三人ともそう思った。だが、ここでウーバに逆らうことはしなかった。


(ここで下手に逆らうのはよしておこう。パーティーを抜ける最高のタイミングはこの僕が美味しい思いをする時でないとね。アリクがいなくなったおかげでウーバをうまく利用できると考えるか)


(こいつは腐ってもAランクの剣士。まだ利用価値はあるわ。パーティーで稼いだお金はまだかなりあるから遊べるまでパーティーにいても問題ないわ。アリクが金の管理してたから制限がなくなったとみるべきかしら)


(俺は……メスルがいるなら……)


 三人ともウーバほどではないが自分のことばかりを考えていたのだ。だからこそ、ウーバの言うことにはこの時逆らわなかった。


「……そうなんだ。分かったよ」


「そういうことなら仕方ないわね」


「……分かった」


 三人の答えにウーバは満足して笑った。自分がパーティーで誰よりも優位に立てたものだと思って優越感に浸ったのだ。


「よし! そういうことだ。一人減った分だけ俺達に金が回るんだから治療費ももう少し使っていいわけだ! だから、」


「ちょっと待ってウーバ! お金に管理ってアリクがしてたんじゃなかったの!? その後の管理って誰がするか決まってるの!?」


「…………あ」


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