約束の絵画

@sorano_alice

第1話 それぞれの美

 高校二年生の美術部員の彼は一枚の絵画を描いていた。

 その絵画は美術部に入った一年生から今もずっと描き続けている。


 美術部では食べ物や物を描こうなどとお題が出される中、彼だけはそれすら入部時から無視し、ただその一枚の絵を描いていた。

 美術部員たちはそんな彼の身勝手な態度に黙ってはいなかったが彼は気にせず描き続ける。異常すぎる作品だったが次第に美術部員たちだけは慣れて、描き続けるたびに彼の絵画の美しさにまずは彼の美術部の友達や美術部員は虜になった。さらには美術部ではない生徒までも美術部の絵の異常さ、常識に狂いだした。


 しかし、美術部員や美術部員ですらない生徒たちを虜にした絵を途中でぐしゃぐしゃにして捨てた。

 そしてまた先ほど描き続けていたであろう絵を描き始める。

 そんな行動を何度も何度も繰り返している。


 少しずつ判明していく彼の絵画。人物像なのかわからないが長い髪をした少女に見えたのかもしれない。何かを捕まえるようにも見えれば覆いかぶさるようにも見えるのかもしれない。


 二年の中盤に美術部員が彼に聞いた。


「何を描いているの?」


 彼は真剣そうに描きながら答える。


「これからのことだよ」


 美術部員達には意味が分からなかった。


 絵具で色を塗っているころなのだろうか。その長い髪をした少女なのかもわからないがその髪は銀髪だったのかもしれない。

 そんな錯覚で色も判明したというのにまたしてもその美しく謎に満ちた絵画を捨てた。


 彼の美術部員の友達は尋ねる。


「どこが駄目だったの?」


「美しくない、もっと完璧に描けるはずだ」


 虜になった友達から見れば相当美しかったが彼からすると美しくなかったらしい。

 もしかすると彼は彼の理想のなにかを想像し、その想像したなにかを描いているのかもしれない。

 三年生も引退して二年生の美術部部長はやはり見入ってしまう。それと同時に不安も残る。この作品は彼が美術部から退部するまでにできるのだろうかと。


 美術部の美という異常さを魅せられ狂ってしまった美術部員以外の生徒は彼に問う。


「これは作品?名前はあるの?」


 彼は問う、命、と。



 ついに三年生になってしまうそのころ、ようやく彼の作品、命、は完成した。


 美術部部長は腑に落ちない。物足りないと。

 彼の友達も納得しない。確かに美しいがまだ続きがありそうだと。

 美術部員達も不自然に思う。素晴らしい作品ではあるものの寂しさを感じると。

 美術部員以外の狂ってしまった生徒も満足しない。これはそもそも作品なのかと。



 彼は三年生になった。彼の友達や美術部部長、彼の絵画によりおかしくなってしまった生徒や美術部員数名も同クラス。

 そんな中こんな時期に編入生が入ってきた。


 彼女は彼の描いた作品、命、の少女に見えていたかもしれない人物なのかもしれない。髪の色は銀髪で長い髪をしておりその姿は美しい。

 彼の絵画は学年中で、美術部では美しさ、美術部員以外では謎で有名だ。クラスの美術部員が驚いた。彼を除き。

 彼女の名前は未来というらしい。


 彼は呟く。


「6年ぶりだね、未来」


 未来という少女は彼と面識があるのか幼馴染だったのかもしれない。


「私の番だね」


 未来は三年生だが迷うことなく美術部に入部した。


 未来は彼を模写するように描き出したように見えた。

 彼からは未来の作品が見えない。

 未来は彼と違って彼を見て描いているのだろうか。

 未来が入部してから彼は未来そのもののようなその少女が描かれているであろう作品、命、以外の作品を一切描くことなく未来の模写となった。


 未来も同じく彼と同じように美しく謎に満ちた作品を描いていたにも関わらずまたしても捨ててしまう。

 同じようなことを何度もするが模写がある分未来のほうが描いているであろうスピードは速いのだろう。


 美術部達や美術部以外の狂ってしまった生徒は今度は未来の作品に釘付けとなった。

 美術部部長や様々な人物から未来に質問が問う。


「なぜ彼を、まずそれは描いてるの?」


「絵は嘘を吐かない、全てを現実にするため描いています」


「この作品はなんていう名前なの?」


 その質問に未来は答える。運、と。



 美術部退部まであと少しとなったころ、彼をはじめ、美術部部長や彼の友達、美術部員、そして美に狂わされてしまった生徒たちが見守る中未来の作品が完成した。



「私と彼は幼馴染、そして私がこの年にこの地に戻ってくることもわかっていた。彼は私を想像し私の姿を使い心をこの紙で表現した。そして私はその彼の姿を使い、私自身の心をその紙で表現した」


 彼と未来は幼馴染だったらしい。


「これが未来との作品、運命だ。これからこの作品と同じことが起きるだろう」


 彼も未来も自分の描いたであろう運、と命、は見ているもののお互いの作品は見ていない。

 未来の作品運、と彼の作品命を、を美術部部長は横に繋げてみた。


 ただし、彼と未来はその作品を見なかった。彼らはこの作品と同じ末路を辿るのだろう。



 その繋げ合わせた運と命、運命の作品に驚きを隠せなかった。


 美術部部長にはその作品、運命が彼の描いた未来と、未来の描いた彼がお互い求めあっているような抱きしめあいそうなそんな光景に見えた。彼と未来は結ばれる、愛し合うのであろうと思った。


 美術部の彼の友達はその運命が、彼の描いた未来が、未来の描いた彼を突き落としているかのように見えた。まるで崖から突き落としているかのように。彼か未来はどちらかは恨まれているのであろうと思った。そして殺されるのだろう。


 美術部員はその作品運命に、彼の描いた未来に対して未来の描いた彼は逃げているかのように見えた。まるで興味がないかのように。彼も未来も元からどちらも意識自体していなかったのだろうと思った。または片思いだとも思った。


 美術部以外のおかしくなってしまった生徒はその作品、運命に異常さしか感じなかった。なぜなら運命そのものが白紙なのだから。絵を描くということは何もない空白のペースを誰だって好きに埋められる。美の素晴らしさを痛感した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

約束の絵画 @sorano_alice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ