俺の夏休み編

第25話

「陰陽高校岡山支部襲撃事件」から何週間か経った

気付けば7月、外に出るだけで汗がダラダラと流れるようになってきている

完全に夏だ


こんな暑い中、俺は3ヶ月ぶりに測定器を両手両足に付けている

何で今更そんな事をしているかと言えば、きっかけは分からないけどついに霊力を扱えるようになったから


事件の翌日から霊力がダダ漏れになった俺はすぐ気絶するという日々が続いた

担任に霊力の扱いを覚えないと死ぬかもしれないと言われたので、文字通り死ぬ気で習得した

というかせざるを得なかったのだ


そうこうしていたら、襲撃事件の方も落ち着いてきたので測定器でちゃんと測ろうという事になって今日に至る


別に俺一人で良かったのだが、何故か武本以外のクラス全員が見に来ている


担任「よし!いいぞやれ」


担任に合図され霊力を放つ

自分の体を青い霊力が包み込むのが見える

それらは両手両足の測定器に吸い込まれるよう流れていく


結構霊力の消費がキツい…


陰陽灯が光を放つ

勿論、白い…


担任「はい。並、終わり。」


うん…分かってたけどね?

皆に見られてるせいでなんだかすごく恥ずかしい気分になった


ポンポン


黒川が無言で頷きながら肩を叩く

うぜぇー!!

なんで見に来たんだよ!!


担任「おい!これ忘れず飲んどけよ」


そう言って薬のような物を投げられる


「なんすかコレ?」


担任「いいから飲め。絶対無くすなよ、無くしたら…」


担任は親指を首に当て横に動かす

いや、怖いが?


流石に殺されたりはしないだろうがどうなるか分からないのですぐに飲んだ


ドクンッ!!


心臓を直接握られたと錯覚するような衝撃が体に走る


体の中の”何か”に霊力が吸われる感覚

測定器のそれとは比べ物にならないスピードで霊力が吸収されていく


やばい!死ぬっ!!


霊力は生命力とイコール、無くなればそれ即ち「死」という事


俺はこの学校に来てから何度死を覚悟したんだろうか…


そんな事を考えていたら”何か”に吸収されたはずの霊力が暴れ狂うように漏れだしている


分かり辛い感覚かもしれないが、腹の中に今にも爆発しそうな爆弾があるってイメージしてもらうと分かりやすいかもしれない


だが今度は慌てない

教えて貰った訳でもないのにそうするのが最善だと分かった


「かしこみかしこみ申す……霊装…展開!」


体から青白い光が放たれる

手にはさっきまでなかったはずの何かがある

光が収まって徐々に見えるようになってきたそれは…


「なんだこれ?」


杉山「剣じゃん」


黒川「剣じゃろ」


「剣…だな」


どこにでもあるような何の変哲もない剣

長くもなく短くもなく丁度いい長さ

刀でもなく普通の両刃


担任「霊装とは…使用者の性格・戦闘スタイル・願望・素質が形になると言われてる」


わざとらしく大きな声で説明してくる


なんだぁ?

つまり、俺は何の変哲もない剣のように普通の男って言いたいのか?


ふざけんなよ…

俺は安倍晴明の生まれ変わり…

かもしれない男で…

一般人から陰陽師になった…

まるで漫画の主人公のような(見た事ないけど)…

そんな!そんな!男なんだ!!


その霊装が何の変哲もない剣な訳がないだろう!!


そう。特殊能力とか…


思い付いた俺は何も無い空間に向かって思い切り剣を振り下ろした


振り下ろした剣から何かが出た!とか

剣が光った!とか

めちゃくちゃ鋭かったとか

そんな事はひとつもなく

ただ冴えない俺が何の変哲もない剣を振り下ろしただけだった


ポンポン


今度は杉山が肩を叩いて頷く


俺は泣きたくなった


「お前ら覚えとけよー!!」


まるで悪役の雑魚キャラのようなセリフを吐きながら俺は走り去った



のだが授業中だったので普通に担任に連れ戻された

めちゃくちゃ恥ずかしかった


何んせよこれで俺もようやく皆と同じスタートラインに立てた訳だ

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