第31話 攻略法、発見?

『お、よく分かったな、隊長』


『闇を上書きするように黄色が瞬いていれば嫌でも分かります!

 迷宮の闇を遮るかみなりですか!? こんなの見たことありません!!』


「そう言えば、さっきはこの闇の中でも炎は見えたんだよな……」


『ちょっ――雷だけじゃなく炎までも!? なにしてくれてんですか!!』


『そっちはオレじゃねえが――悪かったよ、隊長。アバターズを食ってるドラゴンが、ロボットの機能を取り入れるんじゃないかって思ったらな……、こうなっちまった』


 さすがに、遠隔操作の機能がドラゴンに付与されたところで関係ないだろうが……。


 イメージによって付与されるものは、やはり合う、合わないで選別されているのだろうか?


 なんでもかんでも付与されるわけじゃない……。

 だとしたら不都合なイメージは、ドラゴン側で拒否されることになるのか?


 ドラゴンが不利になるイメージをして、ドラゴンを追い詰めることはできない……?


「……いや、そうじゃねえな。

 単純に、ドラゴンの軸を変えることはできないわけか」


『ドラゴン』という前提があるからこそ、ドラゴンに付け加えることができる要素をイメージしてしまう……。炎を吐ける、首が三つになる、などだ。


 たとえば足ではなく、車輪に変える――たとえばドラゴンの姿ではなくなる、など――。


 本来の『ドラゴン』という前提を崩して、新しい要素を付与することはできないのだろう……迷宮ギミックとしては、新しく生み出した方が早いと判断されるはずだ。


 だから、有利、不利ではなく、可能か不可能かで判断されている。

 そのため、攻略法は依然変わらず、プラスイメージによってドラゴンを弱体化させるのが王道なのだが――、まあ、それができれば苦労しないという話だ。


 個人ならばまだしも、チーム戦だ。

 俺自身がどれだけプラスイメージを作ったところで、隣の仲間がマイナスイメージを持てば相殺されるし、マイナスが強ければ、ドラゴンはさらに姿を変えて強化されていく――。


 一度、付与されてしまうと、そういうドラゴンであるという前提が固まってしまうために、なかなか強化されたドラゴンのイメージを拭えない。


 取り除くことで弱体化させるのではなく、付与することで弱体化を狙ってしまうのだ……、持っている武器を取り上げればいいのに、ドラゴンには扱いにくい武器を新しく付与することで、操作に手間取る隙を作る、みたいな……。


 それは好機なのか、相手に武器を与えて強化しているのか分からない弱体化のさせ方だ……。


 これじゃあこっちの攻撃は、相手に次々と武器を与えるだけになってしまう――。どうにかして自然と寄ってしまうマイナスイメージを拭わないと、舞台に上がることすらできない。


「……雷なら、とりあえずは避雷針をイメージして――」


 ドラゴンの額に、大きな角が生えるように……――これはこれで新しい武器を与えていることになってしまっているが、仕方ない。避雷針として、これ以上にぴったり位置はないだろう。


 固定観念は、プラスであれマイナスであれ、強くイメージできる――そして。


 一体でもいい、避雷針が付与されれば。


 周囲で瞬くドラゴンたちの雷は、高く伸びる角へ自然と集まっていくのだから――。


『きゃっ!?』


 俺を担ぐロボットから、女性のような声。……実際、声は変えているので機械音なのだが――ロボットの中は女性であるため、当たり前だが、女性らしい声の癖だ。


 彼女が驚いたのは、後方だけでなく、周囲から黄色い瞬きと――、

 避雷針へ雷が伸びたのか、同時にドラゴンの体が雷を受けて感電していた。


 一体だけではなく、周囲のドラゴンのほとんどだ。


 ……自身の雷が自身の避雷針へ……? これは自滅の永久機関が生まれたか?


 雷を付与し、その後、避雷針を付与して攻撃とする……なるほど。


 一つの攻略法を見つけた気がした。


『……あぁっ、しまったごめんなさい!!』


 恐らく、彼女は隊長としてあらゆる危険を想定したのだろう……、だからこそ、そのイメージがすぐさまドラゴンに適応されてしまった。


 ……責める気にはなれない。

 これは癖だから仕方ないのだが、俺も同時に考えてしまったのだ――。


 何度も雷の直撃を受けていれば、耐性ができるのではないか?


 避雷針を持っていながら、体を雷で焼かれるドラゴンではない、というイメージが、彼ら『ドラゴン』を強化してしまう――。


 雷耐性を得たドラゴンは、いくら雷の直撃を受けてもダメージにはならない。


 逆に、溜めた雷を放出することで新しい武器を得たということも――。



 これもだ。


 こういうイメージも、強化に繋がってしまう……ッッ。


 永久機関は生まれなかった。


 希望から一気に、絶望へ叩き落とされた。


 最悪の武器が、ドラゴンの額に集まっていき――、



 瞬きは巨大な光へ。

 だが周囲を照らすことはなく、闇と重なっている部分だけが雷で埋められている……。


 閃光――バチ、バ、バチィィッッ!! 


 という音が聞こえた時にはもう既に、俺の全身は痙攣していた……。


 意識が遠のく、



『っ、逸らすことも、吸収することもできませんか――っ』


『単純な量が多過ぎるんだ、逸らすにせよ吸収するにせよ、アバターズの範囲外だぞ……まあ、アバターズに雷の耐性はあるだろうけどよお』


『受け止め切れなかった漏れた雷が、グリットさんに直撃しています!

 心臓は動いているので大丈夫そうですが……しかしこのままではいずれ――』


『……なら、出るか?』


『え?』


『ここまで追い詰められちまうと、リッカとサタヒコの救出も満足にできるとは思えねえ。

 だから、一旦、引き返す――地上に戻るぞ』


『ですけど……っ。リッカは道が繋がっていない、別の場所にいるのかもしれませんが、サタヒコくんは今、この迷宮のどこかにいるはずで――』


『この危機を抜け出す案が、あるか? その肩に乗る生身の人間一人を殺さずに、リッカとサタヒコを救出して、無事に地上へ帰れる案があるなら従うぜ、隊長』


 痙攣する全身のせいで、口を挟むことができなかった。


 ……会話を聞いていると、やはりここは深追いはせずに、地上へ戻る、という結論に至ったようだ。だが、地上へ戻るのだって、深追いと同じく難しい気がするぞ……?


『大丈夫だ、マッピングの記録がある。

 この内部構造で言えば、出口は――あっちだな』


 まったく同一の地図はないが、それでも似ている内部構造は、大きくずれがあるわけではない。あっても出口の位置が違うくらいか……。


 その出口も、内部構造を見れば、数か所に絞られる。順番に見て回っていけば、いずれ辿り着くのだ――だからぐるぐると同じところを回って迷子になる、ということはない。



『大丈夫でしょうか、サタヒコくんは……』


『しぶとく生きてるだろ。あいつも生身で突撃したみたいだが、迷宮内を視認できる暗視ゴーグルがある。――準備不足のこいつと違って、まったく見えないわけじゃねえからな』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る