言えなかった好きという言葉

龍鳥

言えなかった好きという言葉


「なあなあ、イチャイチャしようよ」


八重歯を口から覗かせる彼女、千賀子は言う。茶髪のパッツン前髪が実に印象的だが、本人は髪を切り過ぎたと気にしているので禁句だ。



「断る、彼氏でも適度な距離を取れ」


「お前に抱き着かないと、禁断症状を起こすんだよー」


「俺は麻薬か何かかよ」


「だって、離れるの嫌だもんー」



実に可愛い僕の彼女。隣同士の近距離なのに、俺たち2人はメールを交わし始めた。



『俺の事、どれくらい好きだ』


『宇宙で一番好き』


『ベタすぎる、減点だ』


『じゃあ、そっちが言ってよ』


『好きだ。それしか表現できん』



 男勝りな口調でありながらも、いざ素直な態度を取られたら顔を真っ赤にするのが、いつもの癖だ。本当に、可愛い奴め。

 彼女は美人とは言い難いし、可愛いとも言い切れない。性格は周囲を明るくするムードメーカーだ。それ故に、ウザいと言われてるのが偶に傷だが。だが俺だけは知っている。千賀子が俺だけにしか見せない表情は、世界一可愛いからだ。



『話しを戻すけど、どうしてメールなんか話すの?』


『そんなことより、次のデートの予定はいつにする?』


『話を聞けよ!!』


『こうした方が、本音を語りやすいだろう』


 勿論、千賀子の弱点も俺だけが知っている。直球の言葉に弱い。だから隣で俺の肩に顔を隠してスリスリしているのも、照れ隠しの一種だ。



『ゲームデートなんてどうよ!!今は自宅で楽しめるデートも増えてるらしいからさ!!』


『なら、格闘ゲームをやろう。今すぐ買ってくる』


『…お前、ゲーム機持ってないじゃん』


『彼女であるお前の為なら、喜んで金を出すぞ』


『待て待て!!やっぱりやめよう!!金を使わないデートにしよう……』



 当然だ。千賀子の為なら、何枚の札束を出しても足りない。それで笑顔になれるなら、なんでもする。しかし彼女は、いつも食事デートに誘うと割り勘だと言って譲ってくれない。そういう謙虚な性格も好きだ。



『そうだ。お前のただ一人の友達がいるだろう』


『う、うるさい!!親友の沙也ちゃんのことを悪く言うな!!』


『もし、俺とその人が2人で歩いている姿を目撃したら、どうする?』


「はっ?」


 思わず声を漏らす彼女の声が聞こえた。いいぞ、動揺している。ちょっと、からかってやるか。…いや、撤回だ。やりすぎた。



『ごめん、泣かして』


『泣いてない』


『俺が千賀子以外に浮気するかよ』


『うるさいわい』


『本当にごめん』


 彼女は涙脆い。これも俺だけが知っている。打たれ弱い女性のことを、大抵の男性はめんどくさいと思うかもしれないが、とんでもない。この泣いている顔を一生かけて守ってやりたい男心をすくわれないのか。世の男性たちよ。



『お前、アタシを虐めるなんて頭おかしいわ』


『泣いてる姿も可愛くて、つい』


『それだけのために、沙也ちゃんをダシに使うなよ』


『なら、お前の大好きなあれをやってあげよう?』


『待って。この流れどっかで…て、昨日も同じ流れをして朝帰りだったじゃないか!?わざとか貴様!?』


『もう遅い』


 秘儀、押し倒して接吻。こうすれば、千賀子の泣き顔は一発で吹き飛ぶ。すぐに顔を真っ赤にして押し倒された彼女は、目をグルグル巻きにしていてる。これからの出来事は…大体想像がつくだろう。



 「おうちでデートはできる。ただし一泊付きの宿泊で俺と共に過ごさなければなるがな」


 千賀子の携帯を持つ手が震えている。もう一度キスをしてやると、携帯をベットに落として俺の首を両手に添えて抱きしめた。



 これが俺の彼女。会話よりも、心で通わすことができる最高の女性だ。

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言えなかった好きという言葉 龍鳥 @RyuChou

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