「お前、お嬢様に何をした！？」

　傍（かたわ）らで見ていた執事が僕に向かって怒鳴りつける。

「ご心配なく。お嬢様の滞っていた魔力を開放しただけですよ」

　僕は執事のあげた怒鳴り声にも気にせず冷静に説明を始めた。

「先程フローラお嬢様は魔法が使えないと言われておりましたがそれは魔力を上手く引き出す事が出来ていないだけだと思い、少しだけ手助けをする魔法を使わせて貰ったのです」

　僕はそう説明するとフローラ嬢に分かりやすく初級魔法の唱え方を教えた。

「今の説明で理解出来たのでしたら次は実践してみましょう。怖がらなくても大丈夫ですよ、この魔法は指先が光るだけの安全なものですから」

　その言葉を聞いたフローラ嬢は小さく頷（うなづ）くと空に指先で魔法陣を描き呪文を唱えた。

「体に巡る魔の力よ我の周りを照らし出せ『ライト！』」

　彼女の力ある言葉に体から集められた魔力の粒子がフローラ嬢の指先から小さな光の球体となり現れ、ビー玉くらいの大きさで輝きだした。

「凄い！凄い！初めて魔法が成功したわ！あれだけ色々な先生達が教えてくれても一度も成功しなかったのに！」

　フローラ嬢は自らが発生させた光球に興奮し、はしゃいでいた。

「フローラお嬢様。良い成功体験をされましたね。いかがでしたか？これが魔法を使う実技の楽しさです。これでも実技はつまらないですか？」

「ううん。凄く楽しいわ！もっと教えて頂戴！」

　フローラ嬢が催促するのを驚愕の表情で見る執事と侍女達。それもそのはず、今までにも家庭教師など何人も雇ってきたが、誰もかれも３日も保たずに解雇されていたからである。もちろん彼女のやる気を引き出せなかったからであるが……。

　その後も魔力の流れについてや魔法の原理についての説明を丁寧に行い、彼女もそれを真剣に聞いていた。

「お嬢様。残念ではありますが今日はここまでにさせてください。明日より夕刻の鐘が鳴る頃に伺いますのでそれまでお待ちくださいね」

「そうなの？本当に残念だわ。でも、仕方ありませんわね。では明日を楽しみにお待ちしていますわ」

　その後フローラ嬢は本当に残念そうな顔をして僕が帰るのを見送ってくれた。

（よし、あのくらいやる気を見せるならば掴みはOKだな。後は必要な事を順次教えていって模擬試験をクリアしていけば大丈夫だろう。簡単な依頼で助かったよ）

　しかし、本当は簡単な依頼ではなく、レベルHARDの依頼だったとは知らず呑気に宿舎に帰るアリオンだった。

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