オタク三原則ってなに?

俺たちはウサ先輩たちと本屋に行くことになった。そこでウサ先輩の処女作を購入した女の子を探すことになった。



「ウサ先輩!」

俺は追いつく。


「ん? どした? ストーカーか? ストーカーなら回れ右して警察に自首したまえ」

とウサ先輩は言う。


「違いますよ……店主さん困ってましたよ。ウサ先輩が本を仕入れるように言うからって」

と俺は言った。


「ふん。あの店主もなかなかのタヌキだな。自分から言わずに君みたいな純朴そうな若者を使って自分の不満を言わせるとは……ま、しかしだ。これはボクと店主の問題。君には関係ない。違うか?」

ウサ先輩は言った。


「ん……まぁそうですけど」


「大体あの店が傾いているのは店主のギャンブル依存症のせいだろ? それを全てボクのせいにされてもなぁ」

とウサ先輩は不機嫌そうに言った。


「ウサ先輩。本を買った人のところに行くんですか?」

俺は聞いた。


「うむ。そうだ」


「あの……向こうからしたらちょっと迷惑じゃないですか? 本を買っただけで追いかけられて感想を求められるって。ボクだったらちょっと嫌かなぁーーって思うんですけど」


俺は言った。つまり言いたいことはウサ先輩マイペース過ぎないか? ってことだ。これは最初からそうだった。向こうから強引に被験者第一号にされた。店主の都合も考えずに本を仕入れさせたり。ミカゲを置いていって一人で突っ走ったりしていた。


まぁ俺に関係ないって言ってしまえばないんだが……周りの人も振り回されて喜んでる感あるし。でも、もうちょっとは人の都合を考えた方が……俺はモヤモヤする。


「いや、買っていった女の子はキミじゃないだろう。なにを分けのわからんことを言っているのかね。文句があるなら付いてくるな。それだけだ」

とウサ先輩が俺を冷たい目で見る。


うぅ……容赦ない……


「しかし、なんだキミついてくるのかね。ついてくるならボクをエスコートしてくれたまえ。キミが車道側を歩くんだ」

とウサ先輩が言う。


「こうですか?」

俺はウサ先輩の横の車道側を歩いた。


「そうだ。ひったくりがバイクで通りかかった時に、ボクの身代わりになってひったくられて怪我をしてくれる位置にだ」

とウサ先輩が言う。


「なんなんすか……それは」

俺は言った。


「あと直射日光が苦手なボクのために日光を遮って皮膚がんのリスクを引き受けてくれる位置にだ」

とウサ先輩が言う。


「先輩ボクのことをなんて思ってるんですか?」

俺は聞く。


「む? 被験者第一号だろ? なにか問題あるか?」

とウサ先輩は俺の目を見つめて言う。


「しょうがないですね。分かりました。なにも問題ないですよ」

俺は笑って言った。むぅ……っと恥ずかしがるウサ先輩。いや、ウサ先輩はやっぱり可愛い。


少しの沈黙の後ウサ先輩は言った。

「決めたんだ。ボクは周りの迷惑なんて考えないって」

とウサ先輩が切り出した。


「えっ?」


「キミの言いたいことは分かるよ。その奥歯に挟まったモノの正体もな。つまりはボクがワガママすぎるってことだろ?」

とウサ先輩が俺の方を見ずに前を見つめて言う。


「あっ……ん」


突然の指摘に驚く。ワガママだとは思ってないけどな……せっかくいい長所があるんだから、少しは短所を直した方がいいのになって思っただけで。俺は言い訳っぽく自分自身に言い聞かせる。


「ボクも昔は周りに合わせようと努力してきたよ。周りを傷つけないように迷惑をかけないようにだ。でも、駄目だった。ボクは生まれつき変人なんだ。どれだけ気をつけていても周りと違う。それだけでボクは人を傷つけてしまう。人から傷つけられてしまう」

ウサ先輩は空を見上げながら言う。


「……」

俺はウサ先輩の表情を見る。


「それでもなんとか自分を変えようと随分恥ずかしい思いをしてきたよ。でも、ある日やめた。誰かに配慮することも。誰かに迷惑をかけないようにすることも。そしたら少しはラクになったよ。そして自分を好きになれた。だんだん人付き合いを減らしていき、そして一人になった」

ウサ先輩は言った。


「うん……」


「だがある日キミが現れた。ずっと一人だったボクに変化が訪れた。ボクはまた誰から傷つけられてもいいと思ったよ。その誰かさんがありのままのボクを受け入れてくれたからね」

と言ってウサ先輩は俺の方をチラリと見た。


「ウサ先輩……」


「キミがいたからこんな自分でも良いんだって思えた。自分を好きになれた。だから自分の都合であの古臭い書店を潰してもいいし、自分の都合で読者のところにいきなり行って、絶対に面白くないって言うなよ! 的なオーラを出しながら読書感想文を求めても良いんだ」

ウサ先輩は笑って言った。


「ウサ先輩!?」


「ボク天才だからさぁ。自分以外全員バカに見えるんだよね。だから基本自分以外どうでもいいんだよね」

とウサ先輩が言った。


「ウサ先輩!? なんで一人で好感度積み上げて一人で壊してるんですか!」


「公道でイチャイチャ……公道でイチャイチャ……公道でイチャイチャ……公道でイチャイチャ……公道でイチャイチャ……」

とミカゲが言う。


「うるせぇよ! ボケてくるタイミング良すぎだろ! ミカゲすげぇな! お前!」

と俺はミカゲにグッっと親指を立ててサムズアップのポーズを送った。


ミカゲもグッっとサムズアップのポーズをする。

「褒められた褒められた褒められた褒められた」


とミカゲはまた高速詠唱を始めた。


「でも、悠斗。ボクが一人ぼっちだったの本当だ。毎日寂しかったこともな。だからキミにはボクを守ってほしい。ボクを一人ぼっちにしないで欲しい」

とウサ先輩は赤面して照れながら言う。


「ウサ先輩……!」


「だからキミはボクに迷惑をかけられろ! ボクのありのままを受け入れろ! ボクのワガママにキミを巻き込んでやるからな! 覚悟したまえ!」

と赤面して照れながら人差し指を俺に突き立てて言う。


「……」

俺はウサ先輩をみつめる。


「な、なんか言ったらどうなんだ!」

とウサ先輩が焦りながら言う。


「……あぁなんか。俺ウサ先輩のことが好きです」

俺は言った。立ち止まるウサ先輩。


「えっ? それはつまり……愛の告白か?」

ウサ先輩はうろたえる。


「はい。今分かりました。ボク、ウサ先輩のことが好きです。大好きです」

俺は言った。


「えっ? あっ……あ、あ、あ、あ、あ……」

うろたえるウサ先輩。


「先輩はどうですか?」

俺は聞いた。


「そりゃボクもキミのことが……好きかな?」

とウサ先輩は最後疑問形で言った。


「なんで疑問系なんですか! そこはハッキリと言ってくださいよ」

俺は言った。


「あ、あ、あぁ! もうキミのことが好きだよ! これでいいか!」

とウサ先輩は照れて怒りながら言う。


「それでいいです。よく言えましたね。ウサ先輩」

俺は笑って言う。


「おい! ねぇちゃん! 大丈夫か!」

と後ろから声が聞こえた。


「えっ?」


俺たちは振り返る。するとミカゲが真っ直ぐにうつ伏せで倒れていた。


「ミカゲ大丈夫か!」

「ミカゲ!」


と俺たちが駆け寄る。


「喋りかけるな! 陽キャ!」

と顔を上げたミカゲが憎々しげに言った。


「陽キャ!? ボクは陽キャじゃないぞ!」

ウサ先輩が言う。


「ウサ先輩は陽キャです! 今何をしました? 告白成功しましたよね! それ大罪ですよ! 大罪! 私達の誓いを破るんですか? 付き合わない。自慢しない。インスタで匂わせない。のオタク三原則を!」

ミカゲが言った。なんだそりゃ。


「オタク三原則? あれは……もうやめだ。ボクは今、人に迷惑をかける。とりあえず大声を出す。悪いことしても仲間同士でかばい合う。の陽キャ三原則で生きることにしたから。ゴメンね。ミカゲ」

とウサ先輩は言った。


「うごぉ!」

っと言ってミカゲは倒れた。


「あと、とりあえず弱い者いじめをして強さアピールする。の原則も追加だ」

とウサ先輩は言う。


「げぼぉ!」

ミカゲは声を出した。


「さっ! さてと。ミカゲは大丈夫だな」

ウサ先輩がそう言って俺に向き合った。いや大丈夫なのか?


「と、ところで、ぼ、ボクと付き合うってことでいいのかな?」

とウサ先輩がモジモジして言う。


「はい。お願いします」

俺が言う。


「そっ、それではっ! では今の彼女と別れてくれるってことでいいか?」とウサ先輩は言う。


「あっ! うん……はい……」

あれ? 別れる? 俺誰かを付き合ってたっけ……


「そっ、そっかじゃああの時陸上の女子とは別れるってことだな?」


「?!」

あっ! 葵! そうか! しまった! 俺は葵と付き合っていたんだ! うおおおおお!! やってしまった!!


「えっ? あっ! はい!」

俺はとりあえず誤魔化すように挨拶だけ軍隊式にしておく。


「おっ、なるほど。そうか! では着いてくるがいい」

となんだか挙動不審になりながらウサ先輩は歩き出した。



「ここが例の女のいるところだな。見つけて感想を聞いてみたいものだな!」

ウサ先輩が言う。


「店主がこのショッピングモールでよく見かけるって言ってましたもんね」

俺は言う。


「あっ! あの子じゃないのかね? 店主の言っていた特徴ピッタリだぞ!」

とファストフード店で食事をしながら本を読んでいた女の子を指さした。


「あっ! あれは……おあっ!!」

俺は思わず動揺する。ヤバイ! ヤバすぎる!


そこにはウサ先輩の処女作『夕焼けの校舎で君を待つ』を読んでいる葵の姿があった。


なんだかちょっとラブコメっぽくなってきました! 


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